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レポート

『ワイン好きのためのコルシカ島』完全ガイド

『ワイン好きのためのコルシカ島』完全ガイド

「コルス」「コルシカ」呼び方はなぜ違うのか。島の歴史や気候、ワイン法など、「ワイン」からみたコルシカ島のガイドです。観光旅行の下調べ情報としてもお役立ていただけたら幸いです。 

コルシカ島の正しい呼び方

この島の歴史背景にはフランスとイタリアの両方が関わっています。
フランス語でCorse、コルス
イタリア語ではCorsica、コルシカ
現地の言葉ではCorsica、コルシガ
言語による違いですので、どの呼び方も正しいです。このサイトではコルシカ島のことをフランスのワイン産地の一つとして扱います。ですからこれより以下は『コルス』と表記します。

歴史とワイン

現在コルスはフランス領の島ですが文化的にはイタリアの影響を色濃く受けています。18世紀まではジェノバ領であった島は1768年に独立運動を抑えきれなくなり、ジェノバがフランスに兵士を派遣してもらう代わりとして、統治権を一定期間移譲する条約を結びました。約一年間の戦いののち、フランス軍によりコルスが沈静化すると島は完全にフランスの統治となりました。

通常イタリアの土着ブドウ品種として扱われる、重要なブドウ品種『サンジョヴェーゼ』が『ニエルッキオ』と呼ばれてこの島でも栽培され、ワインが造られていることはコルスの大きな特徴の一つです。ニエルッキオは独立運動以前にジェノバから持ち込まれたと言われ、以来独自の進化を遂げました。現在ではブドウ栽培面積全体の35%(2380ha)を占める最大品種となっています。

1960年代にフランス領から独立したアルジェリアからの撤退者が、フランス政府の助成もあり、こぞってコルス島に移り住みました。彼らはブドウ畑を拡大して1976年には量産用のブドウで畑が4倍に膨れ上がりましたが、あくまでも「量産用」でありワインに品質は伴いませんでした(当時の栽培面積30,000ha)。1980年代以降に品質改良が行われ、A.O.C.規定も厳しくなっていきました(現在の栽培面積は6,000ha)。

気候

コルス島はブドウの生育に必要な日照が豊富です。年間2900時間弱でフランス随一。地中海性の気候で夏は暑く乾燥、冬は多雨です。中部の最大都市アジャクシオで平均最低気温3.9℃(1月)~平均最高気温27.7℃(8月)。島の北側の方が高い傾向があります。島を囲む海は日較差(一日の最高気温と最低気温の差)を小さくする役割を果たします。昼間に熱を吸収し、夜間に放出して夜の気温を上げる効果があるからです。

コルス島のブドウ栽培では『風』が最も重要な要素です。代表的な風には名前がついており、以下のとおりです。①ローヌ渓谷から吹くミストラル(Mistral; マッシフサントラル※フランス中南部の山地とアルプスの間から吹く)②北からの冷たいトラモンタン(Tramontane; massif centralとピレネーの間から吹く)③サハラから吹く暖かいシロッコ(Sirocco)

地理と地形

地理的にはフランスよりもイタリアに近いため、歴史的にもイタリアのつながりが深くなりました。平均海抜586m、2000mを越えるピークが20以上と、とても山がちです。

土壌

場所によって非常に多彩な土壌をみることができます。西(アジャクシオ)側は花崗岩が中心。最北端のコルス岬はシスト土壌。そのすぐ南に位置するパトリモニオでは粘土石灰が中心。東側は堆積土壌、泥灰土が中心となります。

ブドウ栽培

ブドウの樹は海抜300メートル以上の高台に植えられています。伝統的にはゴブレ式(株仕立て=ブドウ棚を使わず上部をまとめ上げる方式)が主流で、機械化に伴いコルドンやシングル・ギュイヨなどの仕立ても増えました。風が非常に強いため病気の心配はほとんどありませんが、leafhopper(昆虫の一種で和名はヨコバイ)による病気感染には注意が必要です。灌漑は禁止されています。

ワイン法における主要アペラシオン(産地呼称)

パトリモニオA.O.C.(1968)

北端の岬が突き出たエリアの付け根部分にあたります。1968年にコルス初のA.O.C.として誕生(『The Oxford Companion to Wine 4th Edition』/Jancis Robinsonによる。『フランスAOCワイン辞典』/三省堂には「1976年認定のヴァン・ド・コルス・パトリモニオから1984年に独立してAOCクリュに昇格」とある)。

410ha、33のドメーヌ(生産者)が存在します。

ニエルッキオ(サンジョヴェーゼ)はパトリモニオの粘土石灰土壌に合い、強い色調と骨格のあるタンニンとバランスの取れた酸をもたらします。2000年にパトリモニオのA.O.C.が改定し、赤ワインには90%以上ニエルッキオを使用することが定められました。

アジャクシオA.O.C. (1984)

島の西側、ナポレオン生誕の地としても知られるコルス島最大の町アジャクシオを中心としたアペラシオン。土壌は花崗岩。260ha、14のドメーヌが存在します。

赤・ロゼ:主要品種(60%以上)はスキアカレロ(単独40%以上)、バルバロッサ、ニエルッキオ、ヴェルメンティーノ。補助品種(40%以内)としてカリニャン(単独15%以内)、グルナッシュ、サンソー。

白:ヴェルメンティーノ(80%以上)、ユニ・ブラン。

スキアカレロの栽培面積は1,020haと広く、スパイシーでクリスプ、色は淡いがアルコール度数の高い品種です。アジャクシオの花崗岩土壌で成功しています。

ヴァン・ド・コルスA.O.C. (1976)

パトリモニオを除くほぼ全域で認められている広域A.O.C.。1603ha、17のドメーヌと4社の協同組合があります。

赤・ロゼ:ニエルッキオ、スキアカレロ、グルナッシュで50%以上を占めていなければなりません。

白:ヴェルメンティーノ75%以上

ヴァン・ド・コルス+地区名A.O.C. (1976)

「ヴァン・ド・コルス」の後に地区名をつけることが認められている5つのアペラシオンがあります。Coteaux du Cap Corse、Calvi(カルヴィ)、Figari(フィガリ)、Porto Vecchio(ポルト・ヴェッキオ)、Sartene(サルテーネ)

ミュスカ・デュ・カップ・コルスA.O.C. (1997)

ミュスカ・ブラン・ア・プティ・グラン種100%で造られる、ヴァン・ドゥー・ナチュレル。コルス島北端の岬に位置し、わずか74haに37のドメーヌが存在。

参考資料
1) フランスAOCワイン事典 (三省堂)
2) The Oxford Companion to Wine 4th Edition(Jancis Robinson)
3) ワールド・アトラス・オブ・ワイン(ヒュー・ジョンソン)

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