ポリフェノールが『マイクロRNAを制御』ってどういうこと?ガンの予防につながる!?
2024年にノーベル生理・医学賞に輝いたのは、ビクター・アンブロス教授とゲイリー・ラブカン教授でした。発表したテーマは『マイクロRNAの発見および転写後の遺伝子発現調節における役割の解明』というもの。
『マイクロRNA』ってなんぞや、の解説をしながらワインにも含まれるポリフェノールがガンなどの予防につながるかもしれないという研究論文の内容ご紹介させていただきます。
DNAと『マイクロRNA』
私たちの体を形作るタンパク質は遺伝子を設計図として作られるのはご存じの通り。DNAから情報が転写され、
メッセンジャー RNA(mRNA)
⇩
タンパク質
の順に作られるという一方向の流れが標準です。
このとき遺伝子の果たす役割は「タンパク質の設計図」に限られていると考えられてきました。
しかし研究が進むうち、DNAの90%以上はタンパク質の設計に関与しないことがわかりました。これらは『がらくたDNA』とか『ジャンクDNA』と呼ばれています。この『がらくたDNA』とされていた領域から、実は多くの"ノンコーディング"と呼ばれるRNA(ncRNA)が作られていることがわかりました。ノンコーディングRNAの1つが今回取り上げるマイクロRNA(miRNA)です。なんとタンパク質を作るメッセンジャーRNAの発現を調節する重要な役割を持っていたのです。
マイクロRNA(miRNA)とは?
マイクロRNA は1993年にアンブロス教授らによって発見されました。研究に用いられたのは最近「ガンの匂い」をかぎ分けることで注目されている「線虫」。この発見のあとヒトやマウスなど多くの動物で1000種類以上もマイクロRNA が発見されました。
ガンや糖尿病などの疾患にかかると、細胞内にある特定のマイクロRNAの量が変化します。これを正確に検出できれば様々な疾患の早期発見につながるので創薬分野やバイオマーカーとして注目されています。
植物由来のポリフェノールが、ガン治療で注目の的に
最新の前臨床研究ではポリフェノールがガン抑制性のマイクロRNAを促進し、逆にガンを起こすマイクロRNAを抑制することが報告されています。その作用のおかげでいろいろな種類のガンに抗腫瘍効果を示します。
ポリフェノールとノンコーディングRNAの調節メカニズム
ガン抑制性マイクロRNAを促進させる
ポリフェノールは、ガン細胞の抑制に関与するノンコーディングRNAの発現を増加させることが確認されています。これはガン細胞の増殖が抑えられ、治療効果が高まることに期待ができるということ。
ガン原性miRNAの抑制
ガンを引き起こすノンコーディングRNAの発現を低下させることで、ガンの進行を抑制する効果があります。つまり、ガン細胞の悪性化や転移が防がれる可能性があるということです。
ポリフェノールのガン治療における可能性
ポリフェノールは、これらの研究からガンの治療に有望な成分ということがわかりました。しかし本番の臨床研究はこれからで、効果を裏付ける証拠が充分ではありません。とくにマイクロRNAの調節を介したポリフェノールの作用機序については、さらなる研究が必要です。
今後、ポリフェノールの抗ガン作用を明確にするために臨床試験が進んでいくはず。近い将来、治療効果の向上や副作用の軽減にポリフェノールが一役かってくれるようになるかもしれません。
結論
ポリフェノールは、ガン治療におけるncRNAの調節という新しく発見されたメカニズムを介して、抗腫瘍効果を発揮する可能性があります。ガン治療の新しいアプローチとして期待されており、その可能性がさらに高まることでしょう。
ポリフェノールを摂取するのに、もちろんワインを飲むことは一つの方法です。しかし必ずしもワインでないとならないわけではありません。様々な食品に含まれているポリフェノールを意識して摂取することが、健康維持に繋がるのではないでしょうか?
参考文献
Lee RC, Feinbaum RL, Ambros V. The C. elegans heterochronic gene lin-4 encodes small RNAs with antisense complementarity to lin-14. Cell. 1993;75(5):843-854.
Zhang L, Kang Q, Kang M, Jiang S, Yang F, Gong J, Ou G, Wang S. Regulation of main ncRNAs by polyphenols: A novel anticancer therapeutic approach. Phytomedicine. 2023; 120: 155072.
Ohishi T, Hayakawa S, Miyoshi N. Involvement of microRNA modifications in anticancer effects of major polyphenols from green tea, coffee, wine, and curry. Crit Rev Food Sci Nutr. 2023;63(24):7148-7179.