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スタッフのつぶやき

日本ワインを牽引する『ヴィラデストワイナリー』。世界に通用するワイン造り

日本ワインを牽引する『ヴィラデストワイナリー』。世界に通用するワイン造り

長野県のワイン産地、東御市で最初に造られたワイナリー。エッセイストであり画家でもある玉村豊男さんと現代表取締役社長の小西超さんが道なき道を切り開き、この産地を引っ張ってきました。今では小西さんのもとで栽培や醸造を学んだ多くの方が、ブドウ農家として就農し自身のワイン造りに励んでいます。
今回は日本ワインを牽引する小西さんに、ワイナリーの誕生秘話やワインを身近に感じてもらうためのヒントなどについて詳しく伺いました。(2024/8/3)

インタビュアー:にっちー

モトックスワインアンバサダー。Instagramを通じて「ワイン好きが作る野菜おつまみ」を発信中。
長野県内のワイナリーに勤務し、さまざまな角度からワインを勉強している。

にっちー|ワイン好きが作る野菜おつまみ @nicchi_recipe

強い気持ちがあれば、夢は叶う

ワイナリー計画が中止に

にっちー:小西さんはどういう経緯でワイナリーで働くことになったんですか?

小西:大学卒業後、宝酒造に就職したんですけど、そこでワイナリーを造ろうという動きがあったんですよ。

にっちー:え!そうなんですか!?

小西:当時は赤ワインブームでかなり売れていたので、それに乗じてね。それで、玉村さんはちょうどそのときここでブドウを植えていらしたので、協力してもらいながら東御市にワイナリーを造ろうとしました。あのとき僕は宝酒造の社員として、ときどき玉村さんの畑を手伝ったりサンクゼールさんで一緒に醸造させてもらったりしながら、ワイン造りの勉強をしていたんです。いずれは東御市内に宝酒造のワイナリーができて、そこで仕事をする予定でした。

にっちー:そうだったんですね。知らなかったです。

小西:それを数年やってたんですけど、だんだん赤ワインブームが落ち込んできて、ワインは売れなくなって……。ちょうどその頃、宝酒造の看板商品が他社の参入で厳しくなったんです。それでワインなんかやってる場合じゃなくなって、ワイナリー計画が中止になりました。

 

道なき道を切り開く

にっちー:それはショックすぎます……。

小西:その当時、麻井先生というすごく熱い方から学んでいたんですけど、先生からかなり影響を受けて自分でもワインを造りたい!という気持ちが高まっていました。そんな中でワイナリー計画が中止になったので、がっかりしましたね。それが2001年の話です。

にっちー:せっかく準備してきたのに……。

小西:でも諦められなくて、玉村さんといろいろ話していたら「じゃあ一緒にワイナリーやるか!」みたいな感じになって。それで一緒にワイナリーを立ち上げさせてもらうことになりました。

にっちー:いやもう……ワイナリーを立ち上げられるだけの熱量がすごいです。

小西:でも、玉村さんの奥さんには大反対されていました。食事によくご一緒させていただいたんですけど、ワイナリーの話になると夫婦喧嘩が始まるみたいな……。でもなんとか玉村さんと一緒に説得して、最後にはちゃんと納得していただけました。そこから急ピッチで計画を進めていって、2003年にワイナリーが完成しました。

ワインで評価されたい

にっちー:ヴィラデストワイナリーにはレストランやショップなどいろいろとありますけど、観光的な立ち位置を目指したんですか?

小西:もちろん観光的な面もありますけれど、ワインそのものが評価されないとダメだなっていう気持ちもありました。玉村さんはヴィラデストワイナリーでは日常から離れて癒されるというか、全体的な空間を楽しんでもらいたいとお考えでした。僕はもともとワインから入っていたので、良いものを造りたいという想いでした。

にっちー:小西さん目線で、改めてヴィラデストワイナリーの魅力ってどういうところだと思いますか?

小西:やっぱりまずはこの景色ですね、本当に素晴らしい。ワイナリー以外に建物がないので、日常から離れてリラックスできる場所だと思います。そして、ワインを造るうえで気候的にも恵まれています。雨は少ないし、全体的に南向きの斜面で日当たりも良いです。 標高は850mと高いので、しっかり酸味のあるワインができる恵まれた場所です。

にっちー:本当に素敵なところですよね。ワイナリーとして何か新しい動きはありますか?

小西:御堂地区というところにワインブドウ団地があるんですけど、そこに新しく畑を広げているんです。それがこれからワインになっていきますから、もう少し親しみやすいものや、これまでになかったタイプにも挑戦してみたいです。

にっちー:なかったタイプとは具体的にどんな感じですか?

小西:例えばシャルドネですが、今うちで造ってるのは樽発酵、樽熟成というしっかりしたタイプなんですけど、ステンレスタンクでもう少しすっきりさせてみるのも面白いかなと。あと、今流行りのコンクリートタンクを使ってオレンジワインにチャレンジしてみたいです。

にっちー:めちゃくちゃ楽しみにしています!

少しずつ輪を広げて地域を盛り上げていく

誰もが知っているブドウを使って、土地の個性を表現する

小西:うちはフランスのブドウばかり使っていますね。そういう国際品種を使って、世界に通用するようなワインを造りたいです。ワイナリーができた当時、日本のワインは「あまり美味しくない」「甘い」っていうイメージがあって、全然評価されていませんでした。でも「品種や栽培地域をちゃんと選んで、正しい知識を持ってしっかりと手間をかければ、世界に通用するような良いワインができる」と麻井先生にずっと言われてきました。その影響を受けてきたので、そういうワインを造りたいという気持ちを持ち続けています。

にっちー:垣根仕立てにしているのも、ヨーロッパの影響を受けていますか?

小西:まぁそうですね。あれから20年ぐらい経って、日本ワインのレベルはどんどん上がっていますし、 今の時代だったら土着品種などを大切にするのも重要だと思います。でもその前に、まずは国際品種を使って世界の技術を取り入れながらワインを造り、世界に通用することです。ワインは農産物ですから、同じ方法でやったとしてもフランスやアメリカと同じものができるわけではありません。この土地の気候や土壌を反映したものになります。なので、土地の個性をしっかり反映させしつつ、世界に通用するようなワインを造りたい。ヴィラデストはそういうワイナリーです。

にっちー:小西さんが思う世界に通用するワインって、どういう味わいやイメージがありますか。

小西:うーん、難しいですけどね。だけど今言ったように、この土地の個性をちゃんと反映しているっていうことですね。それにヨーロッパ系品種って、世界の共通言語みたいなものだと思うんですよ。言語でいえば英語ですね。誰もが知っている品種を使いつつ、 ここの個性をちゃんと表現する。それが世界に通用するようなヴィラデストワイナリーワインだと思います。

にっちー:その土地の個性というのは、雨がほとんど降らないとか日当たりが良いとか、そういうところですか?

小西:雨が少ないことと、やっぱり全体的に冷涼ですよね。冷涼だから酸がしっかり残っているし、雨が少ないので凝縮感がある。かといって、例えばカリフォルニアとかオーストラリアのワインのように濃厚ではなくて、繊細な味わいだと思います。

にっちー:繊細だけど凝縮感があるって、すごく良いですね。

先駆者としてリードし、産地の未来を考える

にっちー:最近は、この辺りにワイナリーが増えていますよね?

小西:そうですね。今は東御市内だけでも14軒ありますね(※)。

にっちー:もうそんなにあるんですね!?

小西:ヴィラデストワイナリーが最初にできたんですけど、それが2003年です。それから20年で14軒になりました。今年さらにもう1軒増えます(※)。

にっちー:勢いがすごいですね!新興ワイナリーが増えている中で、ヴィラデストワイナリーはどういう立ち位置だと思いますか?

小西:この産地を引っ張ってきた存在であるのは、間違いないと思います。なんだかんだいって、東御市で最初のワイナリーですし。そのあとアルカンヴィーニュで千曲川ワインアカデミーを始めて、そこで勉強した人がワイナリーを始めるっていうのもありますしね。自分のワイナリーのことだけではなくて、産地としてどういう風になっていくかというのを考えていかなければならない立場だと思います。

※インタビュー時14軒。本コラム公開時点で15軒目が醸造免許を取得済。

にっちー:どんどんワイナリーが増えて、ブドウ栽培やワイン造りが盛んになっていると思いますけど、地域にどういう影響がありましたか?

小西:昔は地元の人も「巨峰とクルミぐらいしかない」と言うくらい、あまり特産のない地域だったんです。でもワインができて、それから畜産農家の方と協力して生ハムやチーズとコラボするような動きが出てきました。レストランや宿泊施設を始める人もいらっしゃって、ワインの周りにいろんな動きが広がっています。

にっちー:確かに、そこがちょっと塩尻市と違うというか。レストランも宿泊施設もあるし、すごく良いなと思います。

小西:まだまだ小さいですけれど、少なくともそういう輪が広がりつつあるっていうのは、変わってきたところですね。

あまり考えすぎずに、純粋にワインを楽しんでほしい

日々の食事にワインを取り入れてみる

にっちー:私は、フォロワーさんにワインをもっと楽しんでもらいたいなと思って、Instagramで日々発信しています。でもお家でワインを飲む人ってまだまだ少ないなって思っていて……。一般家庭でなかなかワインが浸透しない理由ってなんだと思いますか?

小西:そうですね。昔に比べればだいぶ飲むようにはなってきてると思うんですけど、まだまだ敷居の高さはありますよね。もっと気軽な飲みものになれば良いんですけどね。

にっちー:どうすればもっと気軽にワインを楽しめるようになると思いますか?

小西:価格の問題もあるから難しいとは思うんですけど、例えばスーパーだと数百円のワインも売られていますよね。それなら普段飲んだって、他のお酒と比べて高いわけじゃないので、まずはそこから始めるのはどうでしょうか。料理と合わせるとか、そういうのはあまり考えずにね。とりあえず毎日の食事にワインを入れてみてもらう。だんだん「これでも良いんだ」みたいな感じになっていくと思います。

にっちー:ワインは家庭料理とも合いますよね。

小西:合うと思います。それで誕生日や記念日などの大事なときに、ちょっと良いワインを飲んでいただきたいです。でも普段は、お手頃なものを楽しんでもらうと広がるんじゃないかなと思います。

にっちー:ハードルを下げるじゃないですけど、ちょっとずつ慣れてもらう感じですね。

普段の活動が日本ワインの認知に繋がる

にっちー:小西さんはワインを飲むときに、何かと合わせたりしますか?

小西:特にこれというのはなくて、そこにあるものです。チーズとかあれば良いですけどね。

にっちー:私も同じで「料理と合わせなきゃ」ではなくて、 あるものと一緒に楽しんでいただきたいと思っています。

小西:そうですね、あまり考えすぎない。もちろんワインに合う料理とか簡単に作れるレシピとかはすごく大切だと思いますけど、それがないと飲めないって考えないで欲しいですね。

にっちー:小西さんは普段自宅でも召し上がると思うんですけど、お家ワインの魅力ってなんだと思いますか?

小西:それこそあまり堅苦しく考えず、気軽に飲めることろです。あと、外で飲むとお金がかかりますから、リーズナブルに楽しめるのも良いですよね。

にっちー:私はInstagramを通して、日本のワイナリーを知ってもらえるような発信をしていきたいと思っています。日本人に日本ワインをもっと知ってもらうために、なさっている活動などがあれば教えていただきたいです。

小西:そうですね、やっぱり人にワイナリーに来てもらってこの景色を見て、ワインや料理を楽しんでもらうのが1番大切ですね。この空間を楽しみながら「ここでワインを造ってるんだな」って、そういうのも感じていただいて。 だから私は普段やっていることが、その活動なのかなと思います。

にっちー:ワイナリーでの日々がすべて活動になっているということですね。

小西:あとは、地域の生産者と協力してイベントもいろいろとやってきましたね。普段ワインを飲まない方や地元の方が来てくださって「ここにこんなに美味しいワインがあるんだ」って知っていただけるので、今後もやっていきたいです。

インタビュアー後記:「ワインのある日常」を広めたい、だから行動する

何も知らないときが1番ハードルが高い

小西さんにワインが広まらない理由を伺ったところ「まだまだ敷居が高いから」とお話しされていて、とても共感しました。個人的には、ワインについて「何も知らないとき」が1番ハードルが高いのではないかと考えています。実際に私自身がそうで、ワインを少しずつ知っていく中で「飲んでみようかな」と手に取るようになり、だんだん身近な存在になっていきました。
この経験を活かして「ワインって難しい」と感じている方に、楽しいと思ってもらえるようなきっかけを作りたいと思い、講座を始めました。この活動がゆくゆくは「ワインのある日常」の広がりに貢献できれば嬉しいです。

芯を持つことの大切さ

小西さんとお話をしていて、何度も「芯がある方だな」と感じました。そう思った理由は2つあります。1つ目はワイナリー計画が中止になったにもかかわらず、ご自身で立ち上げに携わった点。普通だったら諦めてしまうところを「やりたい!」という気持ちに正直に向き合って行動し続けた結果、ワイナリーが完成しています。そして20年経った今も、東御市を代表するワイナリーとして地域を盛り上げている姿に感銘を受けました。
2つ目は「世界に通用するワインを造りたい」という言葉が何度も出てきた点。現状に満足せず、常に向上心を持って取り組んでいるからこそのお言葉。国内外から高い評価を得ている原動力を実感することができました。
ワイナリーに行くことが、多くを感じさせてくれると改めて思った1日でした。次回もワイナリー訪問記をお届けしますので、楽しみにしていてください!

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