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スタッフのつぶやき

『安曇野ワイナリー』情熱溢れる醸造家のワイン造りに対する思いとは

『安曇野ワイナリー』情熱溢れる醸造家のワイン造りに対する思いとは

北アルプスの麓に広がるブドウ畑と奥に佇む南フランス風の建物が美しい安曇野ワイナリーは、2008年にスタートを切りました。設立当初から安曇野ワイナリーを支えてきた加藤彰さんは「テロワールを存分に感じられるクリアなワイン」をモットーに、日々丁寧な醸造を行っています。今では醸造責任者を務める加藤さんに、ワイン造りへの思いや飲み手を増やすポイントなどについてお伺いしました。(2024/8/4)

インタビュアー:にっちー

モトックスワインアンバサダー。Instagramを通じて「ワイン好きが作る野菜おつまみ」を発信中。
長野県内のワイナリーに勤務し、さまざまな角度からワインを勉強している。

にっちー|ワイン好きが作る野菜おつまみ @nicchi_recipe

日々の積み重ねの先にワイナリーの個性が生まれる

異色の経歴の持ち主

にっちー:もともと自衛隊員だったとお聞きしましたが、そのあとはずっとワイナリーで勤務されているんですか?

加藤:塩尻市と松本市のワイナリーで働いて、今に至りますね。安曇野ワイナリーは17年目です。最初は栽培だけでしたが、醸造していた人が辞めてしまったので僕がやることになっちゃったんです。

にっちー:栽培メインからのスタートだったんですね。

加藤:栽培がメインで醸造は少し手伝っていたくらいでした。醸造は全体的な流れは分かるけど、実務はほぼ初めてだったので困っちゃって……。でも仲間に教えてもらって、少しずつ経験とデータを積み重ねていきました。

にっちー:試行錯誤してきたんですね。じゃあここでは最初は栽培も醸造もどっちもやってたんですね。

加藤:どっちもやってたんですよ。しばらくして栽培の責任者が入社したので、醸造メインになりました。

「17回しか」ワインを造っていない

にっちー:何名で醸造しているんですか?

加藤:僕を含めて4人ですね。他のメンバーはここ1〜2年で入社してきたから、教えながら仕込んでいます。

にっちー:そうなんですね。仕込み方や機械の操作方法などは、すべて加藤さんの頭の中にあるんですか?

加藤:そうですね。新しいメンバーが入ってきたからマニュアルを作らないといけないんですけど、説明書だけあってもワインって造れないじゃないですか。現場にいると「こういう時はこうする」って塩梅もありますから。

にっちー:確かにそうですね。

加藤:それに「去年はここが悪かったから変えてみよう」って、造り方を毎年改善しているんですよ。データを積み重ねることで1年1年品質が良くなっていって、10年経った時に「少し美味しくなったかな」って感じるとかね。それを20〜30年続けた時に、そのワイナリーの味になるんですよね。

にっちー:ワイナリーの個性を確立するのって、とても時間がかかるんですね。

加藤:それに、ワイナリーが変われば造り方も全然違いますし。僕は30年間ワインを造ってきて、そのうち安曇野ワイナリーでは17年くらいになりますけど、それは17回しか醸造していないということなんです。

にっちー:そっか、すべての工程を行うのは1年に1回ですもんね。1回1回の重みが全然違いますね。

ワインは人生を変える

加藤:最近は「生活してるんじゃないか」って周りに思われるくらいワイナリーにいますよ(笑)心配性なので「タンクの栓閉めたかなあ」って、自宅に帰っても気になっちゃうんです。

にっちー:え、そしたらワイナリーに戻るんですか?

加藤:戻ることもよくありますよ。家に帰ってご飯食べて「ちょっと一旦会社行ってくるわ」みたいな(笑)。朝も少し早く来て、段取りしたりとかね。

にっちー:えー!ご自宅は近いんですか?

加藤:車で30分くらいですね。でも「契約農家さんがブドウを送ってくる前にタンクを空けなきゃ」とか「急いで瓶詰めしなきゃ」とかいろいろ考えてると、もう仕事に行こうってなるんです(笑)。

にっちー:誰よりも早く行っていてすごいです。好きじゃないとできないですし……だから良いワインができるんですね。

加藤:まぁ、そうですね。どうでもいいワインだったら適当に造ることはできますよ。仕事って割り切って、就業時間通りに働いて土日は休んで……。でも、こだわりを持つってなるとどうしても負担がかかるし、ワインは生き物だからスケジュール通りに進まないこともあるじゃないですか。ブドウが醗酵したけど、土曜日なので知りませんってできないですよね。

にっちー:そうですよね。そういうわけにはいかないですよね。

加藤:収穫のスケジュールだって天候次第で変わるので、繁忙期は休日が不規則になることもあります。ワイン造りに関わっている人にしか分からない苦労とかあるので、おかげさまでこの業界の友達は多いですね。お互いに支え合っています。

にっちー:仲間の存在は大きいですよね。

加藤:ワイン業界に入ったら、もう業界でしか生きられないだろうなって思っちゃいます。だから離れてもまた戻ってくるし。ワインにハマると怖いですよ、人生変わりますからね(笑)。

ワイン造りを全力で楽しむ

次世代にバトンを渡す

にっちー:ワイナリーとしての目標は何かありますか?

加藤:そうですね、今まではコンクールで金賞を受賞することが目標でしたけど、そういうのはもう若い人達にやってもらいたいですね。私は次の世代にバトンを渡す番なので。いろいろとやらせてあげたい気持ちの方が強くなってきましたね。

にっちー:育成に注力していきたいということですね。

加藤:はい。みんなが同じ方向を向いて、ワインを造っていければいいなと思います。

にっちー:なんか色々お話聞いてて「加藤さん=ワイン」ってめっちゃ感じました。

加藤:30年ですからね。

にっちー:勤務年数もそうなんですけど、徹底的な管理とか本当にすごいなと思います。なんでそんなに頑張れるのかなと思って……。

加藤:やっぱり責任があるからですかね。「今ワインを詰めなければ!」みたいなタイミングってあるじゃないですか。良いワインを造るために、常に考えています。

もうワイン造りしかできない

にっちー:日本アルプスワインバレーの中でも大きなワイナリーだと思いますが、どういう立ち位置だと思いますか?

加藤:別にそこまで考えたことはないですね。大きい小さいにかかわらずワインを造っているから、どこにいても多分変わらないかな。それよりも「ワインをどうやって美味しくしていくのか」の方が大事ですね。

にっちー:周りのワイナリーさんとの動きは何かありますか?

加藤:とくにないので、もっと交流した方が良いんじゃないかなって思いますね。周りのワイナリーさんといろんなことを共有して楽しめればいいなって。やっぱりワイン造りを楽しまないと、続かないじゃないですか。

にっちー:確かにそうですね。加藤さんは楽しいですか?

加藤:うん、もうワイン造りしかできないですね。この環境で何十年もやってきたし、仲間がいるから楽しいです。

楽しめればなんでもいいじゃん

初心者のための入り口を作ってあげる

加藤:そういえば、今の若い人達って「美味しいお酒だったら飲む」と聞きました。あと美味しい飲み方を伝えるのも大事だと。

にっちー:そうなんですね。私のフォロワーさんは、ワインって料理と合わせないといけないというイメージがあるみたいで、ハードルが高いと感じている方が多いですね。

加藤:なんかもっと気軽で良いと思うんですよね。合わせるものがないとダメというわけでもないし。グラスだって別になんでも良いし、ソムリエみたいに語る必要もない。

にっちー:そうですよね。ワインってアカデミックなイメージが強いので……。

加藤:ワイン好きの人達はそれで良いと思うんですけど、一般人には敷居が高いですよね。

にっちー:どうすればもっと気軽にワインを飲めるようになると思いますか?

加藤:飲み方が分からない人や、これからワインを飲む人向けに何かあっても良いかもしれませんね。例えばワインをジュースで割ってみるとか、美味しい飲み方を教えてあげると入りやすいかもしれません。そこからだんだんワインを好きになってくれれば嬉しいですね。日本ワインを飲む人も増えてくれれば……!

にっちー:確かに日本のワイナリーは増えているのに、飲む人はなかなか増えないですよね。

加藤:そうそう。どういう飲み方でも良いから広まっていかないと、ワイナリーばっかり増えちゃう(笑)。

にっちー:ですよね。なので私はSNSを通じて日本ワインをもっと広めていきたいと思っています。

加藤:みんなSNSを見るし、スマホさえあれば情報をキャッチできるので大事ですよね。時代に合った広め方をする必要があると思います。

インタビュアー後記:より良いワインを造るために考え、行動する

今回のインタビューで加藤さんのワイン造りに対するこだわりや責任感に圧倒されました。より良いワインを造るために常に最優先で考え、多少ご自身に負荷がかかっても丁寧に醸造する姿勢に感銘を受けました。ご本人は「自衛隊員時代に鍛えられた精神力があるから頑張れている」と仰っていましたが、インタビュー時の物腰の柔らかさや丁寧な対応から、ワインに対しても同じように接しているんだろうなと感じています。

私はこれまで安曇野ワイナリーにはプライベートで何度も伺ってきましたし、県外の友人をよく連れて行ってもいます。今回は加藤さんとお話しさせていただき、知らなかった魅力にたくさん出会うことができました。足を運んだからこそ発見した「好きなポイント」を、周りの人に発信していきたいと思っています。

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