春から夏にかけて、だんだんと日差しの暑さを感じる日が多くなってくると、今日はロゼワインが飲みたいな、と思うことが増えてくる。
どんな料理でも相性が良いので、この時期のさっぱりとした料理にも合わせることが出来て、それなりにコクがあり、何より見た目が美しくて気分も上げてくれる。
そんなロゼワインの中でも私の心を掴んで離さないのは、マルセイユ、ニース、映画祭でも有名なカンヌなどがある、フランス人から最も愛されるバカンスの地、“プロヴァンス”で造られるロゼワイン。
意外に思うかもしれないけれど、プロヴァンスはフランスで最初にワインが造られた、フランス最古のワイン産地でもある。
紀元前600年ごろに、古代ギリシア人によってプロヴァンスの中心であるマルセイユにブドウがもたらされたのが始まりらしい。
まぶしい太陽!青い海!そして豊かな自然!多くのフランス人がバカンスに訪れ、今も変わらずフランス人に愛されるこの地がフランス最初のワイン産地になったというのは、なんだか頷ける。
でも、フランスワインの発祥の地で紀元前から造られていたのが、赤ワインでも白ワインでもなく、ロゼワインだということにはちょっと驚きを隠せない。
今でもプロヴァンスで造られるワインの約9割はロゼワインだ。しかも造られたワインの6割以上はフランス国内で楽しまれているらしい。
バカンスでプロヴァンスを訪れて、プロヴァンスのロゼワインを嗜む。
ボルドーやブルゴーニュのような偉大なワインの名産地ではないかもしれないけれど、プロヴァンスはずっと自国民に愛され続けるロゼワインの特別な産地だということが良く分かる。
プロヴァンスのロゼワインといえば、サーモンピンクのように淡く上品なロゼ色がその魅力の一つ。
この美しい色合いはワインの製法によるもので、歴史的にこの地方では直接圧搾法という手法がとられてきた。
黒ブドウをプレスして果汁を搾り出す際に、皮や種から赤い色素を抽出する方法で、ほんのり色付いた果汁が搾りだされる。
その後は白ワインのように果汁だけを醗酵させていく、どちらかというと白ワインに近いロゼワインで、どうやら今の世界のトレンドはこの淡いロゼワインらしい。
今日選んだワインは「キュヴェ・マリー・クリスティーヌ プロヴァンス ロゼ」
このワインを造るシャトー・ド・ロムラードの創設は15世紀に遡り、18世紀まではなんとフランスの王室御用達だったという由緒あるワイナリー。しかしフランス革命を経て、いくつかに分割され、残念ながらその名声も失われていってしまった
そんなロムラードは、農家出身のアンリ・ファーブルによって再生される。1932年にシャトー・ロムラードの当主となったアンリは、分割されてしまった土地を長い年月をかけて再び購入し、ワインの品質向上にも力をいれていった。
そして遂に1950年までにプロヴァンス一のシャトーと評価されるようになり、1955年にはフランスの農務省にプロヴァンス地方で最も優れたワインを造るワイナリーとして認められクリュ・クラッセの認定を受けるまでに至る。(今では18の造り手しかこの称号を持っていない)
ワイナリーの実力が再び認められたことを記念して造られたワインが、この「キュヴェ・マリー・クリスティーヌ プロヴァンス ロゼ」。
当時珍しかったこのボトルはアール・ヌーヴォーを愛したアンリの孫娘がエミール・ガレの作品からヒントを得て作ったもので(プロヴァンスで最初に認められたオリジナルボトルとなった)、そこには長く険しい道をアンリと共に歩み彼を支えた妻「マリー・クリスティーヌ」の名前が刻まれている。
長い年月をかけてワイナリーを再生したアンリとその家族の愛が詰まった特別なワインだ。
2020年からは“アート”“食”“ファッション”という彼らが考えるフランスのアイデンティティを表現するワインとして、毎年描かれる女性のデザインが変わるというラベルデザインも今後ファンをさらに魅了することだろう。
さて、今日はこのワインにどんな料理を合わせようか。