<アメリカとの出会い>
『リーバイス501』のジーンズとの出会いが私とアメリカとの出会いだ。
無骨でハードボイルドな男がセルビッチデニムの赤耳が見えるようにロールアップし、ワークブーツを履いている姿に心を奪われた。
その頃、日本はヴィンテージデニムブームでリーバイスを中心にその熱が列島を覆っていたように思う。
ただ、中学生の自分はヴィンテージデニムを買うほど小遣いがあるわけもなく、まだ手の届くレプリカの501を履き込み、ヴィンテージ風に仕立てあげたことが懐かしい。
素晴らしい色落ちを再現するために、日中はもちろんのこと、寝る時も更にはジーンズを履いたまま風呂に入ったことさえある。目指したのはハードボイルドな存在だ。
ジーンズと暮らすことが生活に組み込まれてからというもの、ジーンズを中心に全てがアメリカナイズされ、身につけるものや部屋の小物全てにこだわった。 その思いは褪せることなく、大人になった今も暮らしに組み込まれている。
<バーベキューのある暮らし>
その一つが、アメリカで育まれたカルチャー『バーベキュー』である。
アメリカのバーベキューは地域や州によって、スタイルや使われる食材やソースが違う。
その起源は16世紀頃まで遡り欧州からアメリカ大陸への移民が始まったことに起因するという。
一説では、先住民たちが塊肉を長時間かけて焼く「バルバコア」という調理法を、欧州から持ち込まれた豚の調理に取り入れられるようになったことがはじまりとされる。
東海岸から開拓を始めたことにより、今でもそのあたりはバーベキューに豚肉を使うことが多いのはその名残。一方、テキサスなどカウボーイで知られる地域は牛肉を使うことが多く、一頭丸ごと丸焼きにするような技法もある。このことからも、バーベキューはアメリカの歴史と土地柄が反映された調理法といえる。
その家ごとのこだわりがあり、独自のレシピやカルチャーも存在し、それは父から子に受け継がれているのだという。 そのこだわりを表したジョークとしてアメリカでは「初めて会う人との話題に選んではいけないもの。それは政治、宗教、そしてバーベキューだ」と言われるほどだ。
アメリカでは、記念日や祝い事以外でも日常的にバーベキューが催され友人や地域の人々など大切な人と交流し、親睦を深めている。ここ最近になってようやく、それがバーベキューの醍醐味だと気づいた。
<バーベキューへのこだわり>
バーベキューをする上で欠かせないのが、それを取り仕切る『ピットマスター』と呼ばれる役割だ。この役割は、パーティのホストが担うことが多い。ピットマスターは焼き手としての役割もさることながら、そのバーベキューを通して全ての人が楽しめるようにすることが一番の役割であるが、私は最高のピットマスターを目指している。
私がよく使う材料は、ビーフはTボーン、ポークはスペアリブのセントルイスカット。シーフードは、その時々の旬や出会いで変わるが有頭エビと鯵をプランクバーベキューにすることが多い。野菜は、豆類・キノコ類・ピーマン・パプリカ・ネギ・ナスなどをカットせず丸焼きにするのが好きだ。
中でもスペアリブのセントルイスカットは秀逸な食材だ。味はさることながら、見た目にもインパクトがあり、ハードボイルドな男を演出できる。
バーベキューRUB(様々なスパイスをミックスさせた粉末)を全体にたっぷりと擦りこみ、馴染むまでしばらく置く。朝8時から火を起こし、塊肉や大型肉はグリルで3時間以上かけてじっくり焼き上げ12時ジャストに前菜とともに提供できるようにするのが、私のおもてなしスタイルである。
<アメリカンバーベキューに合わせるアメリカ産ワイン>
バーベキューRUBだけでも、スパイシーで十分に満足な味わいに仕上がる。
しかし、私はバーベキューソースも付けて食べることが多い。
それはこの料理に合わせたい、とっておきのワインがあるからだ。
『ナーリー・ヘッド オールド・ヴァイン ジンファンデル』だ。
このワインもまたアメリカ産だ。私は、このスタイルがアメリカワインの王道であると考えている。このワインで使われているジンファンデル種は、全米はもとより世界各国で人気を誇るアメリカを代表するブドウ品種だ。産地は「ジンファンデルの聖地」と称されるカリフォルニア州のロダイ地区である。赤果実系のフレッシュさと黒果実系の熟した香りや、チョコレートやカカオなども感じることができるジューシーで芳醇な味わい。果実は具体的には、レッドプラムやダークチェリーと言ったところか。タンニンも滑らかで酸味と甘みのバランスも良く、適度な複雑さもあり、総じて旨い。
カリフォルニアの恵まれた気候を象徴する、正に王道的存在だ。
バーベキューソースはスパイスたっぷりで甘く、酸味もほどよくそして少しスモーキーなものを使う。ワインの芳醇なベリー感にバーベキューソースの甘味とスパイシーさが絶妙にマッチし、ついつい舌鼓を打たずにはいられない。
アメリカで育まれたカルチャーであるバーベキューと全米で人気のブドウから造られたワインというストーリーを持つこの二つが合わないはずはない。
これを味わうために、一流のピットマスターになるために、週末せっせとバーベキューの支度をする。
<最後に>
余談ではあるが、
ロダイ地区で栽培されているブドウは樹齢30年以上のものが多く、古いものでは100年は優に超えている。背が低く頭にコブができたような形をしているのが特徴的だ。そして、ワイヤーを支えにせず、自らの力とバランスで力強くそこに立っている。これはヴィンテージデニム好きの自分としては、その当時ジーンズを履き力強く生きている無骨でハードボイルドな存在と重なる。それもあり、このワインを愛さずにはいられない。
ジーンズとバーベキューと『ナーリー・ヘッド オールド・ヴァイン ジンファンデル』というワイン、それが私のアメリカを感じる暮らしである。