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ワインラベルの野鳥たち ~人と自然の共存の象徴「ツバメ」、スワロー~

ワインラベルの野鳥たち ~人と自然の共存の象徴「ツバメ」、スワロー~

ワインのラベルになった野鳥と、そのエピソードを紹介する連載コラムの第三弾。5月頃から身近なところで巣が見られるツバメのお話です。目から鱗のツバメのトリビアも。

雨の日が続く。貴重な梅雨の晴れ間には思いっきり出かけようと思いつつ、独特の暑さと肌にまとわりつく湿気に負けて、つい家でダラダラしてしまう。そんな私とは対照的に、メタリックな黒藍色の背を輝かせながら、空を切るように猛スピードで外を飛び回る鳥がいる。そう、ツバメだ。

今、ツバメたちは子育ての真っ最中。民家や商店の軒先などに巣を作り、親鳥は休む間もなくヒナに餌を運び、育ち盛りのヒナたちがかわいい顔を覗かせる。

初夏のマストワイン、ツバメのイラストがかわいい「スワロー」

「ワイン好き」×「鳥好き」=「鳥ラベルハンター」の私にとって、ツバメが飛び交うこの時期に絶対外せないのが、アメリカ オレゴン州のフォリス・ヴィンヤーズ・ワイナリーが造る「スワロー」だ。リースリングとゲヴュルツトラミネールの2種類の白ワインを展開している。

早速ラベルを見てみよう。真ん中に「SWALLOW」の文字。背景には精細に描かれたツバメのイラスト。飾り気のないシンプルなラベルだが、よく見るとツバメがほんの少し上目遣いでめちゃくちゃかわいい。

ワイナリーに聞いたところ、ラベルのツバメが偶然にも日本のツバメと同じ種類だったということがわかり、ぐっと親近感が増した。英名「Barn Swallow」、学名「Hirundo rustica」、和名「ツバメ」。世界に80種類ほど存在するツバメの中で最も広く分布しており、オレゴン州全域にも生息している。春に南から渡ってきて、農場の建物や橋などに巣を作り、夏にかけて子育てをする。

ワイナリーでも夏によく見られるそうだ。近くの池やブドウ畑を飛んでいる蚊などの虫をエサとしている。ツバメは大食漢で一日に数百匹の虫を食べる。そのおかげで夕涼みに外で座っていても虫に煩わされることがないという。

今回、私がおすすめしたいのは、リースリング。
白桃、リンゴ、ライチを想わせるアロマが優しくふんわりと感じられ、その奥からハーブや白胡椒のスパイシーさがアクセントとなって香る。柔らかな甘みが口の中に広がった後に、溌剌とした酸がバランスよく味わいを引き締める。甘過ぎずドライ過ぎず、スイスイと爽やかに喉を潤してくれ、ついついグラスが進む。初夏のこの季節は6~8℃にキンキンに冷やして楽しみたい。

オレゴン州産ブドウ栽培のパイオニア、フォリス・ヴィンヤーズ・ワイナリー

(テッド・ガーバー氏、メリ夫人)

造り手のフォリス・ヴィンヤーズ・ワイナリーについて少し触れたい。1971年にオーナーのテッド・ガーバー氏がオレゴン州南西部のログ・ヴァレーAVAに土地を購入し、ブドウ栽培を始めた。オレゴンの中でも標高が450~480mと高く、当時は気候的にワイン造りに適さないと考えられていたが、膨大な気象データを基にこの地のポテンシャルを確信したガーバー氏は素晴らしいブドウを育て上げることに成功した。1995年に自社瓶詰めを開始し、高いコストパフォーマンスで人気を集めている。

私は長年なぜこのワインの名前が「Swallow」なのか疑問に思っていた。単にツバメがワイナリーの近くに生息しているからという理由だけでは少し物足りないような気がしていた。実は、このワインのコンセプトは、”Distinctive wines at a price you can swallow.”(個性的なワインを納得の価格で)。Swallowには「納得して受け入れる」という意味があるのだ。なるほど、その言葉どおり、この味わいで1,000円台半ばとは。100%納得だ。

日本人とツバメのつながり

日本人にとってツバメは最も身近な渡り鳥であり、古くから私たちの暮らしに密接に関わってきた。

2月下旬からフィリピン、マレーシアなどの東南アジアから3,000~7,000キロを移動して日本に渡り、3月から7月まで子育てをする。かつて主に稲作を営んでいた日本人にとって、害虫を食べてくれるツバメは益鳥だった。それが豊作の象徴となり、縁起がよいと到来を歓迎するようになった。一方、ツバメは人間のそばで子育てをすることで、天敵であるカラスやヘビから卵やヒナを守り、安全に子育てをできるようになった。彼らは敢えて人目のつく場所に営巣する。人とツバメはWIN-WINの関係のもと、互いになくてはならない存在になった。

農薬の開発や農家の減少により、今ではかつて人がツバメから受けていたメリットは少なくなったものの、私たちの間には「ツバメの子育てを見守る」という習慣が今も強く残っている。

ツバメは世界中に生息するが、これほど人との距離が近いのは日本だけらしい。海外から日本を訪れる多くの外国人が、ツバメが民家や商店の軒先、はたまた駅の構内にまで巣を作り、人がフン受けやカラス除けなどを設置して子育てを温かく見守るのを見て、とても驚くと同時に感動するそうだ。

しかし、近年、ツバメは減少傾向にある。日本野鳥の会の調査によると、2013年に発見した巣の数が1,296個(調査参加人数:666人)だったのに対し、2020年には804個(504人)だった。人の生活や自然環境の変化(都市化、過疎化、木造家屋の減少、空き家の増加、里山や農耕地の減少など)により、エサとなる虫が減少し、巣を作る環境も減少していることが原因と考えられている。

人と自然の共存の象徴であるツバメ。その存在が少なくなっていくのはとても寂しい。ツバメに限らず、多くの動植物が消えゆく状態にあり、それは回りまわって私たち人間にも大きく影響する。ツバメの存在を通して、今一度自然の大切さを考え、私たち一人ひとりが自然と共に過ごしていける環境を守るためにできることを探していきたい。

意外と知らないツバメトリビア

ここからは、身近すぎて意外と知らないツバメトリビア。
お時間・ご興味のある方はぜひどうぞ。

■ツバメの生息地
主に北半球(アジア、ヨーロッパ、アメリカ)で繁殖。ヨーロッパで繁殖するツバメは冬にアフリカに渡り、北アメリカで繁殖するツバメは冬に南アメリカに渡る。いずれも日本のツバメと同様、春夏に北上して繁殖し、秋冬に南下して越冬する。


■オス・メスの見分け方
尾が長い方がオス。短い方がメス。オスは尾が長いほど強いオスだといわれている。
二股に分かれた尾はその見た目から「燕尾服」の語源に。


■なぜ春に日本にやって来るの?
冬を越す熱帯地域にはエサとなる虫は一定数いるが季節による変化があまりない。しかし、日本のような温帯地域の方が春になると虫が爆発的に発生し、たくさんのエサを必要とする子育てに適しているため。

■地面を歩くのは苦手
飛ぶことに特化しており、脚が短く弱い。電線や枝などをつかんで止まることはできるが、地面を歩くことは苦手で、地面に降りるのは巣の材料となる土や泥を取るときぐらい。


■ツバメの子育ての期間
約1カ月半。巣作りに3~10日。1日1個ずつ卵を産み、全部で4~6個産む。約2週間抱卵し、ヒナが生まれてから巣立つまでに約3週間。かわいいヒナが見られる期間は意外と短い。ワンシーズンに2回繁殖することもある。

■巣立った後はどうしているの?
川沿いのヨシ原等に数千羽から数万羽が集まり、夜に集団でねぐらにつく。8月中旬から10月にかけて東南アジアへ渡る。


■寿命
野生のツバメの寿命は、ある調査によると平均して3年ほど。寿命が短い上に、危険な長旅を経て頑張って子育てしているツバメたち…優しく見守ってやりたい。

 

参考文献

■植田睦之 監修/日本の野鳥 さえずり・地鳴き図鑑/メイツ出版株式会社/2014
■小田英智・本若博次著/自然の観察事典●12 ツバメ観察事典/偕成社/1997年9月/4ページ
■北村亘著/ツバメの謎 ツバメの繁殖行動は進化する!?/誠文堂新光社/2015年2月

 

参考サイト

■ツバメ/フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』(2022年5月6日閲覧)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%84%E3%83%90%E3%83%A1

■ツバメってどんな鳥?/公益財団法人 日本野鳥の会(2022年5月6日閲覧)
https://www.wbsj.org/activity/conservation/research-study/tsubame/whatis/

■ツバメをまもろう/公益財団法人 日本野鳥の会(2022年5月6日閲覧)
https://www.wbsj.org/activity/conservation/research-study/tsubame/conservation/

■ツバメの全国調査2013~2020年結果報告/公益財団法人 日本野鳥の会(2022年5月6日閲覧)
https://www.wbsj.org/activity/conservation/research-study/tsubame/result2020/

■ツバメの子育てを観察しよう!I事前学習/公益財団法人 日本野鳥の会(2022年5月6日閲覧)
https://www.wbsj.org/nature/research/tsubame/img/swallow-jizen1.pdf

 

ご紹介したワイン・生産者

アメリカ
アメリカ

Foris Vineyards Winery

フォリス・ヴィンヤーズ・ワイナリー

Foris Vineyards Winery
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