ワインから、アルコールの要素だけを除くことはできないか・・・
ワインのように香りと味わいが豊かで、なにより食事に合うノンアルコール。
味わいや色のタイプのように、アルコールゼロも、ワインの1つのタイプとして楽しみたい。
「ピエール・ゼロ」は、ある男女のそんなアイデアから誕生した。
始まりは2010年、南フランスのラングドック・ルーション。
アルザス生まれ、WSETというワイン資格の最高学位Level4を保有するワインのスペシャリスト”ファビアン”と、シャンパーニュメーカーの家系に生まれたマーケティングのスペシャリスト”マティルデ”の出会いである。
ワインをこよなく愛した2人のスペシャリストは、ワイン業界に、ユニークでトレンディな革新を起こしてやろう!と意気投合。南フランスに「ピエール・シャヴァン エステイト」を立ち上げた。
「ピエール・ゼロ」が生まれたのは、マティルデの2人目の妊娠の後のこと。
連続的に子宝に恵まれたマティルデは4年にわたる禁酒生活を送ったそうで、ワイン好きの彼女のことだから、きっとワインを飲みたい気持ちと闘いながら過ごしたことだろう。
その当時、マティルデはフランスではなくスウェーデンで暮らしていた。
スウェーデンという国は世界的に見てもアルコールの規制が厳しくて、アルコール度数3.5%以上のお酒は“System Bolaget”という専門店でしか扱えない決まりになっているらしい。
一説には、寒い国であるスウェーデンでは、歴史的にウォッカなど度数の強いアルコールが好まれたが、アルコール依存症などが社会問題になったことで、1920年代から禁酒運動が盛んになったといわれる。
その後、政府は販売自体を管理するようになり、今でもその体制が残されているそうだ。
世界的に有名なビールのブランドも、スウェーデンのスーパーマーケットで販売できるように、度数を下げて製造しているとか。
そんなスウェーデンのお国柄も、マティルデの熱い想いに拍車をかけたに違いない。
「アルコールゼロのワイン」を造るというプロジェクトは、この経験を機に始まった。
彼らのワインへの情熱は「ただ単にブドウで造っただけのジュース」に留まることを許さず、ワインの風格を湛えたアルコールゼロ、をとことん追求した。ピエール・ゼロの誕生である。
工夫を凝らして完成したピエール・ゼロ。その味わいのあまりの「ワインらしさ」に、あるトップ・ソムリエは、ブラインドテイスティングでアルコール0%だと見抜けなかった、という逸話もある。
しかもそれが、2007年の世界最優秀ソムリエに輝いたトップ・ソムリエの話というのだから、恐るべき「ピエール・ゼロ」、恐るべき「ピエール・シャヴァン」といったところである。
さて、そんな素晴らしいソムリエをして「ワインらしい」と言わしめる「ピエール・ゼロ」には、やっぱりワインの風格を保つための秘密がある。
まず、ブドウ。
ピエール・ゼロ ブラン・ド・ブランは、南フランス産のシャルドネにこだわって造られる。
セレクトされたブドウは、鮮度と芳香性を保つべく、夜間に収穫する。ワインの持つイキイキとした果実味、ふわっと香る豊かなアロマを表現するためである。
次に、醸造。
収穫したブドウは、一部はまず本物のワインとして醗酵・醸造される。完成したワインを脱アルコールし、ここにシャルドネのマスト(=果汁)を追加する。
アルコールという要素が抜ける分、ワインの持つボリューム、ボディを表現するためである。
そして、脱アルコールの方法。
「スピニング・コーン・カラム」という特別な方法を用いる。普通、ワインからアルコールを除去する作業は、ワインに負担をかけることが多いが、この方法では低温・短時間・穏やかにアルコールを除去することができる。
丁寧で繊細な造りによって、ワインのフレッシュさ、華やかなアロマ、ミネラルなどの要素を損なわず、南フランスのシャルドネの味わいを感じるワイン(テイスト飲料)に仕上がる。
ワインのスペシャリスト、ファビアンは、よく自分のことを「オートクチュールのデザイナー」に例えるらしい。
頭の中で想像を巡らせ、輪郭を描き、材料を厳選し、細部を入念に完成させていく・・・そして最後には世にも美しい、たった1枚のドレスを完成させる。
そんなデザイナーのように、人々が求める、他にはない一点もののワインを創造することを信条としているファビアン。
「ピエール・ゼロ」は、まさにマティルデとファビアンの感性とスキルが形作った、唯一無二のドレスのような飲み物なのだ。
ワイン好きにとって嬉しいのは、ワインらしさにこだわったこの「ピエール・ゼロ」が、ワインの素晴らしい魅力の1つである「食事と合わせる楽しみ」をも損なわずに堅持したことだ。
収穫にこだわり、醸造にこだわったこの飲み物は、フランス産の若い辛口白ワインがしばしば持つ、フレッシュで爽やかな酸をしっかりと持っている。
雑誌『ブルータス』の特集「日本一のお取り寄せグランプリ」でノンアルスパークリング編のグランプリを獲得した時は、この食事と相性の良いドライなテイストが、審査員のハートをぐっと掴んだ。
アルコールを除去した本物のワイン由来の、辛口スパークリングワインらしい軽やかなドライさが、ピエール・ゼロの大きな魅力なのである。
大人になって、アルコールを楽しめるようになった。
一方で、大人だからこそ、アルコールを飲まないと決めた日も過ごすようになった。
お酒を飲まない日も、ワインがくれるのと同じ楽しさをあなたに。
アルコールゼロの日のワイン、ぜひお試しあれ。