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ロジカルに解説!赤ワインの表現に『スミレの香り』はあり?!

ロジカルに解説!赤ワインの表現に『スミレの香り』はあり?!

赤ワインの香り(アロマ)を形容する際に「スミレの香り」が使われることがあります。
スミレの香りを「ああ、あれね」と思う人がいれば、「正直よく分からない」という方もいらっしゃると思います。なぜ人によって感じ取り方に差が出てくるかを交えながら「赤ワインのスミレの香り」をロジカルに解説します。

スミレの香り成分は『β-イオノン』という物質

スミレの香りの主因になる物質は『β-イオノン』というアロマ分子です。スミレのほか、ラズベリーの香りともいわれます。ピノ・ノワールやバルベーラ、ツヴァイゲルトといったブドウ品種の赤ワインに感じられることが多いですが、実は赤ワイン全般に含まれています。

ですから赤ワインを「スミレの香り」、と表現することは概してOKと考えてよさそうです。

 

このβ-イオノンは、もともとブドウに含まれているわけではなく色素成分の「カロチノイド」が醸造や熟成中に分解されることで生成されます。

余談ですが「リースリング」のワインなどに感じられる「ペトロール香」の原因となるアロマ分子のTDN(トリメチルジヒドロナフタレン、これも醸造・熟成で生成される)と同じノルイソプレノイド系分子に分類されます。

『スミレの香り』を感じられない人もいる

このβ-イオノン、人によっては感じられない場合があることが報告されています。その割合はなんと25~50%!ということです。

その原因はDNAのわずかな違いによるものです。
人には嗅覚センサーの役割をしている「受容体」(OR5A1)を作り出す遺伝子があるのですが、その塩基配列内での1つの塩基が異なることでβ-イオノンの感受性に個人差が生まれます(rs6591536)。

このようにDNA中の1つの塩基が別の塩基に置き換わる現象はSNPs(一塩基多型、Single Nucleotide Polymorphisms)と呼ばれ、「遺伝子(SNPs)検査」などで近年大きな注目を集めています。

【もっと詳しく!】
OR5A1嗅覚受容体を構成する183番目のアミノ酸のアスパラギン(N)がアスパラギン酸(D)へ変異してしまいます。この変異は細胞外にある領域で生じるため、β-イオノンとの結合に関わる相互作用が変化してしまうことが、閾値に影響すると考えられています(ちなみアスパラギン酸に変異している人の方が100倍以上薄い濃度でβ-イオノンを感知することが出来ます)。



> 続き 『ワインの香りは、人によって違う?!嗅覚と個人差の仕組み』

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参考文献
・後藤奈美, ワインのノルイソプレノイド系香気成分-最近の研究から-, 醸協, 2015; 110: 139-144.
・Jaeger SR, McRae JF, Bava CM, et al., A Mendelian trait for olfactory sensitivity affects odor experience and food selection. Curr Biol., 2013; 23: 1601-1605.

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