伝統的なボトル栓『コルク』
ガラス瓶が造られるより前の時代、液体を入れる『瓶』は陶器製でした。その栓にはやがてコルクが使われるようになります。ワインの容器もガラス瓶とコルク製の組み合わせで詰められるようになり、現代にも続いています。
コルクとは
コルクは、コルク樫(コルクガシ)という木の樹皮から作られる天然素材です。コルクの樹皮は非常に弾力性があり、軽くて耐水性があるため、古くから瓶をふさぐ栓として使われています。ポルトガルのアレンテージョ地方に広大なコルクの森林があり、世界最大の供給国となっています。
コルクの役割
ワインボトルの栓として使用されるコルクは、単にワインの瓶を封しているだけではありません。ボトル内のワインを適切に保護しながら、酸素との接触を適切に抑える重要な役割を果たしています。ワインは熟成の間に必要な酸素を取り入れることができ、風味が時間とともに変化していきます。コルクの特性である微細な気泡構造が、適度な酸素透過を可能にし、ワインの品質を長期間保つのに役立っています。
ワインが熟成するのに酸素が必要であることは現在研究がすすんでいる分野ですが、古くから使われてきたコルクがその役割を果たしてきていたことはすごい偶然ですね!
天然コルク
コルク栓は、コルク樫の樹皮のコルク層を円筒形に型抜きして作られます。普通の木の場合、樹皮を剥ぐと木は枯れてしまいますが、コルク樫は樹皮が非常に厚く、2層に分かれているのが特徴です。樹齢20年くらいで1層目を剥ぐと新しい層が形成され、以後は9~10年おきに剥皮できるようになります。樹齢150年程度まで続けることができます。
コルク栓にはグレードがあり、高級ワインになるほど高級なコルクの栓が使われるのがふつうです。高級なコルクは木目が細かく、長さがあります。これが長期の保管に適したものです。
テクニカルコルク
コルクは天然素材のため、その品質にはバラつきがあります。世界的にワインの需要が高まったことから1970年頃から粗悪なコルク栓が出回って問題になったことがありました。また、コルク原料の調達自体が難しくなったことから新しい栓の開発が求められました。
その時登場したテクニカルコルクは、天然コルクに何らかの手を加えて作られた製品です。
圧縮コルク
圧縮コルクは天然コルクを粒状にして、合成高分子の微粒子と一緒に圧力と熱で固めて作られています。天然コルクより安価で品質が均一です。この製品が出回りはじめた当初は、熟成を目的としないリーズナブルなワインに使われる短い製品がよく見られました。しかし近年は品質が高まり、高級ワイン用の長い製品も登場しています。
有名メーカーの一つDIAMの製品を例にとると、コルクに『DIAM 1』『DIAM 30』のような記載があり、数字部分が耐用年数を指しています。数字の大きなものほど長く、良質なものになります。
ワン・プラス・ワン・コルク
圧縮コルクの両端を円盤状の天然コルクでサンドしたものです。栓を抜く前に見える部分は天然コルクで見た目がよく、ワインに触れる側の安定性も高められています。安価な圧縮コルクの欠点を天然コルクで補った製品です。
樹脂製コルク
シリコンなどの樹脂を原料として作られる栓です。ワインにコルク臭が発生する心配がなく、品質も均一です。製品では主に手術に使われるプラスチックのような安全性に問題のない素材が用いられます。
テクニカルコルクと同じように、流通当初は密閉性はそこそこですが長期保存には向かずカジュアルなワインに使用されることが多い栓でした。現在では改良が進んで長期保存用の製品が開発されており、通過する酸素の量を選択できるといった付加価値をつけたラインナップの拡充が進んでいます。
バイオプラスチック製や、海洋プラスチック製
原料にサトウキビ由来のバイオプラスチックを使った「植物コルク(plant cork)」や、近年社会問題になっている「海洋プラスチック」を回収して原料にしたコルクが登場しています。ワイナリーの考え方によってどのようなコルクを選択するか、その幅はどんどん広がってきています。
スチレン性樹脂製
人工心臓などに使われる不活性素材「テクノポリマー」を用いた製品で、アルデアシール社が製造しています。耐久性が高くコルク臭が発生しないほか、熟成によるボトルごとの品質差がでないように開発されました。骨組み部分、ワインに直接触れるシールド部分、合成コルク本体のボディからなる三部構造になっているのが特徴です。気密性が高く、微妙な通気性も持ち合わせているため、瓶内での熟成も行えます。
スパークリングワイン用コルク
スパークリングの栓を抜くと「きのこ型」をしていますが、もともとは円筒の形をしています。密度が高くずっしり重いコルクで、機械で打栓すると瓶口部分にあたるコルクがくびれてきのこ型になります。コルク栓は、ボトルにしっかり密着し炭酸ガスを閉じ込めることができます。
発泡性ワインは、ガスを含んでいるためコルクが飛んでしまわないよう瓶口周りを針金で留めています。中には、この針金を外しただけで、ガスの圧力によりコルク栓が上がってくるものもありますので、開栓する際は、フキン等で瓶口をカバーしてから針金をはずすようにしましょう。
【注意】スクリュー型のワインオープナーを使用すると、コルクの密度が高いこともあり、最悪の場合、瓶が破裂する恐れがあるのでスパークリングの開栓では、使用しないでください!
スクリューキャップ
道具を使わず、すぐに開栓・再栓ができコルク臭が起きません。写真はロングタイプのスクリューキャップですが、長さの短いショートタイプのキャップもあります。ニューワールド(アメリカ、オーストラリア、ニュージーランド、チリ、南アフリカ等)のワインを中心に多く使用されています。使われるようになった頃はリーズナブルなワインの代名詞のように見られる節がありました。しかし均一性などコルクより優位性がある点が見直され、高級ワインにも使用されるようになっています。キャップの中に入っているパッキンのようなディスクを入れることで酸素の通過量をコントロールできるようになったため、熟成させるワインにも向いています。
正しい開け方をこちらで紹介しています。
王冠
瓶ビール等で使用される王冠です。スパークリングワイン用のコルクの代わりに使用されることもあります。価格が安くコルク臭の心配もない上、栓抜きで簡単に開けられるのが利点です。近年、ナチュラルワインの流行とともに脚光を浴びる『ペット・ナット』など王冠を使うワインは増加傾向にあります。
ガラス栓
ガラスで出来た栓で、アルコア社の作っている『ヴィノ・ロック(Vinolok)』が代表的。 瓶の口に触れる部分にはプラスチック・リング(ポリ塩化ビニル製)がついていて、瓶口をアルミニウム製のキャップで覆って固定します。コルク臭の心配がなく酸素の通過が極めて低いですが、実は良質な天然コルクと同じくらいの高価なもの。開けるときはひっぱって抜くだけで、再栓も可能です。
キャップシール
ワインに使われる『キャップシール』はもともとコルクの乾燥を防ぐために発明されたものです。昔は封蝋(ロウ)や蜜蝋でコルクを覆うことが多かったのですが、現代ではマーケティングの意味合いで使われる場合がほとんどです。通常現代のワインにはアルミやビニール製のキャップシールが使用されており、瓶口の保護が目的です。
現代的なキャップシールにはじめて使われたのは鉛製で、殺菌作用を利用してコルクにゾウムシが侵入するのを防ぎました。しかし鉛でワインが甚だしく汚染されると人体に有害であるため禁止されました。
錫(スズ)製
スズはもっとも見栄えがよく、開栓する際ソムリエナイフで切る際に切りやすい素材です。上質な趣があるうえに毒性がないのですが、実際に高価な素材です。
アルミ
金属製キャップシールの代表的な素材です。錫ほどの柔軟性はありませんが錫よりはずっと安価で多くの銘柄に用いられています。
ポリ塩化ビニル
日常的な銘柄に幅広く使われています。少し加熱して柔らかくし、冷えるときに縮む性質でボトルに密着させます。
ポリラミネート
低密度ポリエチレンでアルミニウムを挟んだ素材。スピナーがでボトルの口部分をラミネートするこtできれいに仕上がります。
蝋キャップ(蝋封タイプ)
コルクをキャップシールではなく蝋で覆ってあるタイプ。全体を蝋で覆ってある場合は、蝋を削ってから開栓します。
コルク上部だけ蝋で覆ってある場合は、蝋を割ったりせず、蝋の上から直接オープナーのスクリューを差し込み、栓を抜きます。蝋が割れた場合は、ワインに入らないよう取り除きましょう。
コルクがかわいいワイン
ワインのコルクは、単なる栓としてだけでなく、そのデザインでワインの個性を出していることがあります。ここでいくつか可愛らしいデザインのコルクをご紹介します。
セレニータ ニット
月のラベルが美しくクールな印象のワインですが、栓を抜くと妖精が現れます。この妖精は月に住むといわれている妖精「セレニータ」のオマージュになっています。ギャップ萌えしますね。
ちなみに妖精そのものがラベルになったワインもあります
ラ・ダンサ マルベック
ラベルもコルクもダンスしています。レッツダンス♪
オベハ ブランカ
ラベルの羊もかわいいですし、コルクにこれでもかというくらい羊がいます。
眠れない夜はコルクの羊を数えたら眠れそうです。
サンテロシリーズ
コルクにいろんな表情の顔マークが描かれています。何が出るかはお楽しみです。
サンテロはミュズレも栓ごとに絵柄が違うので遊び心がうかがえます。
ブリガータ・ヴェルデ・ラーメ アブルッツォ ペコリーノ D.O.P.
「ブリガータ・ヴェルデ・ラーメ」シリーズのロゴがコルクにプリントされています。ちなみにこのロゴははブドウ栽培に使用する農具です。
フォン・ウィニング フォルスター ウンゲホイヤー リースリング トロッケン グローセス・ゲヴェックス
長い名前でお馴染みフォン・ウィニングシリーズ。ラベルがコルクにプリントされています。絨毯みたいな柄がカッコイイです。
栓やキャップにも、色々な種類がありますね。
なかには、間違った開け方をすると危険なものもありますので、開ける前に、どんなタイプの栓やキャップを使っているかご確認の上、お楽しみください♪
関連コラム
参考
ディヴィッド・バード/『イギリス王立化学会が教えるワイン学入門』/エクスナレッジ/2019年
ジェイミー・グッド/『新しいワインの科学』/河出書房新社/2014年
ディアㇺ社/https://diam-cork.com/en(2024/9/6閲覧)
ノマコルク社/https://us.vinventions.com/en/solutions/nomacorc/(2024/9/6閲覧)
アルデアシール社/https://www.ardeaseal.com/gb/index.html(2024/9/6閲覧)
ローラン・ポンソ/https://laurentponsot.com/?lang=ja(2024/9/6閲覧)