カベルネ・フランとは
ワイン用のブドウ品種の一つで、主にフランスのボルドー地方、ロワール地方の赤ワインに使われています。世界で最も生産されているカベルネ・ソーヴィニヨンやメルローといった品種の親となったワイン史に大きな影響をもたらした品種で、今でもフランスを中心に大切に育てられています。
カベルネ・フランの特徴
小さな果粒をつけ、早熟~中程度に完熟する品種です。ボルドー地方に代表される粘土石灰質の土が適しているのですが、条件が合えば砂質の土でもよく育つため、新潟県の『ワイン・コースト』にも植えられています。幹・枝は非常に堅く、育てる人にとっては剪定が大変。しかし冬季に樹の内部で凍った水分が膨張して破裂するリスクが小さく、耐寒性が優秀で病気にも強いため近年は寒冷地などで栽培が増えています。
カベルネ・フランの味は?
代表的なブドウ品種のカベルネ・ソーヴィニヨンと比較して色が薄くて軽く、キレがあり、まろやかでアロマチックです。基本的にはソフトな味わいですが、高級ワインになると重厚になります。畑での熟度よって(未熟にちかいほど)緑を思わせる爽やかな香りがありハーブを思わせるのが特徴的です。
生産面積は9位!
2016年データで世界での生産面積は9位でした。1,2位はカベルネ・ソーヴィニヨンとメルローで、後述しますが両方ともカベルネ・フランの子供たちです。ですからフランは偉大な親だといえます。
生産国と代表的な銘柄
最も生産面積が広いのはフランスで、世界シェア57.7%。ブラジル、イタリア、アメリカ合衆国、チリがそれに続きます。
フランスのボルドー地方、ロワール地方は最も重要な産地。ワイン界を驚かせたイタリアで生まれる高級銘柄や、意外な一面を見せるアメリカ合衆国も注目されています。
ボルドー地方
カベルネ・ソーヴィニヨンやメルローにブレンドする補助品種として重要な役割を果たしています。ブレンドによってワインに複雑さを加えたり、他品種の出来が良くない年の保険的な働きをしたりします。カベルネ・フランをメインにブレンドを行うシャトーもあり、その代表には『シャトー・シュヴァル・ブラン』が挙げられます。
-
- フランス
-
赤
-
2021
Chateau Cheval Blanc
シャトー・シュヴァル・ブラン
Chateau Cheval Blanc
シャトー・シュヴァル・ブラン
750ml, 120,000 yen
こちらの商品は現在取り扱いがございません
ロワール地方
カベルネ・フランはボルドーから北フランスに持ち込まれてロワール地方を一大産地にしました。ボルドーとの大きな違いは単一品種だけでワインになることで、フランの特徴が最もストレートに表現されます。香り高く、中程度のボディ。ラズベリーや鉛筆を削ったときの香りがヒントになります。とくにトゥーレーヌ地区にある『シノン』や『ブルグイユ』ではシルクのように上品なワインができます。
イタリア
1970年代に起きた「イタリアワイン・ルネッサンス」では、数多くの『スーパー・タスカン』と呼ばれる高級ワインが生まれました。カベルネ・フランをメインにブレンドした『テヌータ・ディ・トリノ―ロ』や、カベルネ・フラン100%で世界を驚かせた『パレオ・ロッソ』はその代表です。
アメリカ合衆国
カベルネ・フランの耐寒性を生かしている地域の代表がアメリカのニューヨーク州。冬は-20℃まで冷える地域で、栽培できるヨーロッパ系の品種としてカベルネ・フランが注目されています。
その他の国・地域
日本のカベルネ・フラン
砂質の条件に合うため新潟県の『ワインコースト』や、長野県、山梨県のボルドー系品種のブレンドに栽培されていて評価を受けています。病気に強いことや軽やかなワインに向いたブドウであることから日本でも注目を集めている品種です。
※果皮の色が出ないようにプレスして、白に仕上げたスタイルです
カベルネ・フランに合う料理
ソフトで柔らかな酒質のカベルネ・フランには、軽い煮込み料理を合わせるのがおすすめです。鶏や豚のホホ肉のような柔らかい肉をベースに、バターや小麦粉を使って軽くとろみをつけたソースのかかった料理がよく合います。そのほかにも野菜にパン粉をつけて揚げたおつまみや、チンジャオロースのようなジャンを使った野菜と肉の中華料理にもよく合います。
発祥と歴史
諸説ありますが、スペインのバスク地方が発祥とする説が有力です。
北スペインのガリシア地方にある巡礼地『サンティアゴ・デ・コンポステーラ』に向かうフランスからのルートの途中に重要な立ち寄り場所になっている教会があります。バスクに所在するこの教会は12世紀に建てられており、初期の司祭が作ったブドウ畑にACHERIA(=狐の意味)というブドウを植えたとする記録が残っています。ACHERIAはバスクでのカベルネ・フランの別名で、この記録に登場するものは形態学的に最古または最も初期のカベルネ・フランであると考えられています。
バスク説以前は、伝統的な産地であるフランスのボルドー地方を起源とする説が長く定説になっていました。
カベルネ・ソーヴィニヨンとの違い
同じ「カベルネ」の名前がつく、世界で最も栽培量の多い『カベルネ・ソーヴィニヨン』は、カベルネ・フランの子品種です。カベルネ・フランがソーヴィニヨン・ブランと交配して生まれました。そのためカベルネ・フランはカベルネ・ソーヴィニヨンに似た外見ですが、葉の切れ込みが小さい/カベルネ・ソーヴィニヨンより完熟しやすいなどの違いがあります。
『カベルネ』の意味
カベルネ(CABERNET)の語源には諸説ありますが、最も有力なのは濃い果皮色の「黒」を意味するラテン語のcarbonという説です。これが転じて『カベルネ』という言葉が生まれました。
シノニム(別名)
カベルネ・フランの別名として最も有名なものは、フランス・ロワール地方のブルトン(Breton)です。フランの発祥地と考えられているスペイン・バスク地方の一部では現在でもACHERIA(=狐)と呼ばれています。
大活躍!カベルネ・フランの子供たち
カベルネ・フランは、カベルネ・ソーヴィニヨンのほかにも重要なブドウ品種をいくつも生み出しています。現代のワイン造りに重要な品種の生みの親で、歴史的に古い品種であることがわかります。
カベルネ・ソーヴィニヨン
フランスのボルドーを含むジロンド県で白ブドウの『ソーヴィニヨン・ブラン』と自然交配が起こり、有名な『カベルネ・ソーヴィニヨン』が生まれました。
メルロー
有名な品種である『メルロー』は、カベルネ・フランと『マグドレーヌ・ノワール・デ・シャラント』との交配で生まれました。
オンダラビ・ベルツァ
スペインのバスク地方『チャコリ』に使われている品種で、片親はカベルネ・フランです(交配品種は不明)。
カルメネール
『グロ・カベルネ』とカベルネ・フランの自然交配で生まれました。
※『グロ・カベルネ』はフランスのジロンド県とタルヌ県に存在した古い品種です。カベルネ・フランとは度々混同されてきたことがわかっています。現在ではもう栽培されていませんが、フェール×オンダラビ・ベルツァ(ともにバスク地方起源)の交配品種と考えられています。
「ピーマンのよう?」香りの特徴
カベルネ・フランは未完熟だと「ピーマンの香り」と表現される青臭さを強く感じさせます。この主因となるのは『メトキシ・ピラジン』。ピーマンはもちろん果物や野菜全般に含まれる青草っぽい香りのする物質で、完熟するにつれてその量が減少します。フランにはこの香りが出やすく、その傾向は子品種のカベルネ・ソーヴィニヨンにもあてはまります。
12月4日は『カベルネ・フランデー』
1631年、教皇の最高顧問だったリシュリュー枢機卿(すうききょう)が当時ボルドーで最高とされていたブドウを自身の執事のブレトン氏(フランの別名になった)に送り、それがロワール地方に広がってフランの一大産地になりました。その功績を讃えてリシュリューの命日12/4が『カベルネ・フランデー』に選ばれました。
ただしカベルネ・フランがロワール地方に持ち込まれた経緯には諸説あり「ロワールに入る前にブルターニュ地方に伝わって【ブレトン】の別名がついて、ロワールでは1050年頃にアンジュー伯が植えた」という説のほうが有力です。
どちらの説が正しいかは別として、偉大でありながら注目されることの少ないカベルネ・フランを飲むにはもってこいの記念日!ワインの歴史に思いを馳せながら楽しみましょう。
関連コラム
参考
ヒュー・ジョンソン、ジャンシス・ロビンソン/『世界のワイン図鑑 第8版』/ガイアブックス/2021年
ジャンシス・ロビンソン、ジュリア・ハーディング、ホセ・ヴィアモーズ/『ワイン用葡萄品種大辞典』/共立出版株式会社/2019年
一般社団法人日本ソムリエ協会/『日本ソムリエ協会 教本2023』/一般社団法人日本ソムリエ協会(J.S.A.)/2023年
『スペインの聖地へ フランスから歩いてみた』/毎日新聞/2018年/2024.3.12閲覧
https://mainichi.jp/articles/20180526/mog/00m/070/005000c
『About Cabernet Franc Day』/2024.6.17閲覧
データ参照
キム・アンダーソン/『Which Winegrape Varieties are Grown Where?』/アデレード大学/2020年/2023年7月9日閲覧
https://www.adelaide.edu.au/press/titles/winegrapes