州都と州の特徴
人口は583万人ほどでロンバルディア州に次いで2位、人口密度はイタリアでトップです。風光明媚な州で全域が観光名所といって過言ではありません。州都は「ナポリを見てから死ね」と言われるほど美しい港町で南イタリアの中心都市として栄えてきました。ローマに引けを取らないほどの文化を誇ったナポリですがとくに17~8世紀にナポリ・バロック期には建築、彫刻などに素晴らしいものが造られました。カンパーニア人はサービス精神が旺盛で、外国人がイタリアに抱く陽気なイメージと最も合致すると言われます。
ナポリから電車30分ほどで古代ローマ時代以前から栄えヴェスーヴィオ火山の噴火で遺跡となった「ポンペイ」があり、さらに南には「マルフィ海岸」があります。アマルフィから海岸沿いに西を向いた先には「青の洞窟」で有名なカプリ島があり、名所を挙げだすときりがないほどです。
ピッツァ・マルゲリータ、スパゲッティ・アーリオ・オーリオ・ペペロンチーノ、スパゲッティ・ボンゴレ・ビアンコ、スパゲッティ・アッラ・プッタネスカなど、シンプルながら素材の良さを生かした料理でも有名です。
イタリアのワイン格付け
イタリアのワインは『DOCG』を格付けの頂点としたワイン法によって守られています。カンパーニア州には4つのDOCGと、15のDOC認定銘柄があります(2021年4月時点)。
カンパーニア州内陸部のワイン産地
カンパーニア州のワイン造りは古代から既に絶賛されていたことが分かっています。ローマ帝国時代にイタリア全域で最も名高いワインを生みだしてリードしていたのはナポリの東、内陸部の山間にあるアヴェッリーノ(県)のイルピニアと呼ばれる地区です。3つの重要銘柄があり、イタリアを代表する赤『タウラージ』、高名な白の『グレコ・ディ・トゥーフォ』『フィアーノ・ディ・アヴェッリーノ』を覚えておくとよいでしょう。
『タウラージ』
南イタリアで最も重要なブドウ品種「アリアニコ(Aglianico)」から造られる赤ワインです。暗い色の果皮をもち、力強く高貴で思索的な性格を持つワインができます。アリアニコはかつてカンパーニア州のほかのブドウ品種と同じように紀元前にギリシャ人が持ち込んだとされて大切にされてきましたが、DNA鑑定によってイタリア南部に古くからあった品種である説が有力になりました。
起源がどちらにせよイタリアにとって至宝ともいえるこのブドウが最良の姿をみせるワインの銘柄が『タウラージ』です。1993年に南イタリアで初めてDOCGに認められ、その長熟さから「不死のワイン」と呼ばれることすらある偉大なワインです。酸度とタンニンが強く熟成によって開花します。このあたりで食されるヤギや羊のローストと抜群の相性です。
『グレコ・ディ・トゥーフォ』
『グレコ』というブドウ品種をメイン(85%以上)に造られるDOCGワインです。格調高い辛口白ワインとして有名でリンゴの皮の香りにミネラルの深い味わい。後味に心地よい苦みが残ります。グレコは17世紀の文献に確認される古い品種。長年ギリシャ起源だと考えられていたことから愛飲家の信用を獲得してきました。現在ではDNA解析によってその説は確定的ではなくなりましたが高い名声を誇り続けています。ブレンドに使われる品種のコーダ・ディ・ヴォルペ(Coda di volpe)は「狐の尻尾」の意味でツルの巻き方が似ていることから呼び名がつきました。
『フィアーノ・ディ・アヴェッリーノ』
グレコ・ディ・トゥーフォの隣に位置するエリアで古い『フィアーノ』という品種から造られます。DOCGの高級辛口白ワインとして有名で、忘れられないような花の香りと繊細で緻密な味わいが特徴です。フィアーノは1240年頃には隣のプーリア州フォッジャ近くに存在していたことがわかっており、この品種の起源はアヴェッリーノ地方であろうと考えられています。別名はApianumで、フィアーノの花が蜂(ape)をよく集めることから蜂蜜にちなんでつけられたとされています。ワインのラベルに併記することが許可されていますので見つけることができるかもしれません。20世紀初頭にヨーロッパを襲ったフィロキセラ渦(ブドウの樹を壊滅状態に陥れた害虫)によって絶滅に瀕しましたが、地元ワイナリーの尽力によって復活を遂げました。
ナポリ沿岸部のワイン産地
カンパーニャ州では知名度としては内陸部に及ばないながらも海岸エリアにもよいワイン産地があります。州都ナポリの近郊と、沿岸の島々の見逃せない銘柄をご紹介します。
『カンピ・フレグレイ』
ナポリ近郊にあるDOCワインです。フレグレイ平野で栽培されている『ファランギーナ』から造られる白ワインが有名です。華やかなアロマのフレッシュなスタイルです。
カンパーニア州で栽培されているこのファランギーナ種は州の沿岸部や北東のベネヴェント県で栽培されているポピュラーな品種です。長い間ひとつの品種であると考えられていましたが、DNA解析により2つの種に分かれていることがわかりました。フレグレイ平野をはじめ州内で広く栽培されている『ファランギーナ・フレグレア(Flegrea)』はグラマーな果実味とミネラルの味わい。もう一方の『ファランギーナ・ベネヴェンターナ(Beneventana)』はナポリ県の北東隣にあるベネヴェント県のボネア村が原産とされ、限られたエリアに分布しています。酸度が高く、熟成可能な品種。通好みの洗練されたワインになります。
『イスキア』(イスキア島)
土着品種の『ビアンコレッラ(Biancolella)』で造られる、爽やかでほのかな塩味を呈すDOCの白ワインが有名です。イスキア島は周囲34km、人口7万人ほどの小さな島ですが多くの人がブドウ栽培に従事していてワインは基幹産業のひとつです。地元の魚介類料理の最高の友として愛されています。ビアンコレッラはファランギーナ・ベネヴェンターナとDNA的に近い品種であることがわかっていますので、飲み比べてみるのも楽しいでしょう。
『カプリ』(カプリ島)
ファランギーナ種(ファランギーナ・フレグレア)で造られる白ワインが有名です。鮮やかなアロマをもつフレッシュなスタイルで、DOCに認められています。しかし!カプリのワインは島外ではほとんど手に入らないため貴重です。現地に行った際には必ず賞味しておきたいものです。
『コスタ・ダマルフィ』(アマルフィ海岸)
アマルフィ海岸に切り立つ断崖絶壁で滑落の危険と隣り合わせに栽培されている段々畑を目にすれば、このエリアのワインがいかに貴重であるかがきっとわかることでしょう。ほかのカンパーニア州の海沿いのエリアと同じくDOCの白ワインが代表的です。ファランギーナ(ファランギーナ・フレグレア)とビアンコレッラを主体(合わせて60%以上)に造られます。レストランに入ったら「地元の白ワイン」を必ず注文しましょう。
アマルフィの『リモンチェッロ』
カンパーニア州にはお土産に買いたくなるワインがたくさんあり、スーツケースが瓶でいっぱいになってしまうのは困ることろ。しかしアマルフィの特産リキュールである『リモンチェッロ』もまた帰国の荷物を悩ませるお酒のひとつです。アマルフィ海岸及びカプリ島の「母の味」としてつくられてきたお酒で、地中海の温暖な気候で育ったリモーネ(レモン)の皮を蒸留酒に漬け込んで造られます。液体に濁りがあり緑色をした油分が浮いている場合がありますが、これこそが着色料・香料・保存料を使っていない銘柄に見られる特徴。選ぶときのヒントに覚えておきたいものです。
『ヴェスーヴィオ』
ヴェスーヴィオは噴火によってポンペイを遺跡に変えた火山の名前でカンパーニア州のアイコンともいえる存在です。山の斜面から海岸までの一帯がDOCワインに認定されていて、白ワインはコーダ・ディ・ヴォルペとヴェルデカを主体(80%以上)に、赤ワインとロゼワインはピエディロッソとシャシノーゾ(Sciascinoso)を主体(80%以上)に造られます。この赤ワイン用の2品種もまたカンパーニア州の地品種として知られているポピュラーな品種。ピエディロッソは熟すと茎の部分を赤く染めることから「赤い足」の意味をもちます。白も赤・ロゼも親しみやすい早飲みワインとして知られています。
『ラクリマ・クリスティ』(Lacryma Christi)
「キリストの涙」を意味するワインです。DOCヴェスーヴィオのうち、ワインの収率を65%以下に抑えてアルコールが12%以上になったものが認定されます。「昔この地に来たキリストがこの地で悪の栄えるのをみて涙をこぼしたところにブドウの樹が生えた」とされる伝説からこの名前が付けられました。世界的に有名になった銘柄は、その名に恥じない名声を得ています。
関連コラム
参考
宮嶋 勲/『イタリアワイン 2021年版』/ワイン王国/2021年
一般社団法人日本ソムリエ協会/『日本ソムリエ協会 教本2018』/一般社団法人日本ソムリエ協会(J.S.A.)/2018年
ヒュー・ジョンソン、ジャンシス・ロビンソン/『世界のワイン図鑑 第7版』/ガイアブックス/2014年
本間チョースケ/『本間チョースケ超厳選 飲むべきイタリアワイン103本』/NHK出版/2022年
campaniastories.com/LA CAMPANIA/VINI DOP (DOCG-DOC)/2024年1月19日閲覧
http://www.campaniastories.com/campania/denominazioni-dop/