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ワインのキホン

バルセロナで飲みたい『プリオラート』とカタルーニャ州のワイン解説

バルセロナで飲みたい『プリオラート』とカタルーニャ州のワイン解説

スペインを代表する赤ワインの産地『プリオラート』と、カタルーニャ州全体のワインを解説します。世界中で人気のスパークリングワイン『カヴァ(CAVA)』でも知られるカタルーニャ。その歴史と特徴を紐解きます。

カタルーニャ州(Catalunya)の特徴・歴史

カタルーニャは港湾都市バルセロナを州都とする自治州です。スペインのGDPのうち約20%を占める経済的に豊かな州で、昔から南側に開けた地中海交易が盛んで新しいものを受け入れることが得意でした。986年にバルセロナ伯国として独立したことが現代カタルーニャの起源。中世にはヨーロッパ文化とイベリア半島の大半を支配していた洗練されたイスラムの文化を柔軟に受け入れて発達しました。

1579年のスペイン国家統一後に衰退し、自治権を失いましたが19世紀半ばから「カタルーニャ・ルネッサンス」の時代に芸術運動が起こりガウディをはじめとする芸術家の作品で街が彩られました。1977年に自治権を回復したあとはカタルーニャ語が復活しました。

カタルーニャは地中海文化圏で、首都マドリッドを中心としたカスティーリャ文化圏とは異なります。開放的で先進的な考えをもつ文化はワイン造りにも表れており、創意工夫と新しいブドウ品種や技術への投資が活発でした。

高級ワイン産地『プリオラート』(DOCa)

スペインワインを解説するうえで外すことのできない『プリオラート』はスペインにたった2つしかない『DOCaワイン』の生産地です。1991年の『リオハ』に続き2009年に昇格を果たしました。バルセロナから南に150km、さらに海から内陸方面へ20kmの場所にあり「モンサン山脈」の起伏が激しい丘陵に囲まれています。
「リコレリャ」と呼ばれる特異な粘板岩土壌を有しており特別な赤ワインが造られることと、その地形からワインが希少になることからスペインを代表する高級赤ワインを産出しています。

スペインワインの格付け図

こちらで詳しく解説しています。

プリオラートの土壌『リコレリャ』とは

プリオラートの年間降水量は400mm以下で、通常ならブドウを栽培するには灌漑(水やり)が必要です。しかし『リコレリャ』の土壌はこの地域の気候には意外なほど冷たく湿り気を保ちます。ブドウはその断層に水分と養分を求めて根を伸ばしていきます。さらにリコレリャは日が当たるとキラキラとした珪石が光の反射を起こし、ブドウの熟度を高める効果があります。この土壌と斜面のため著しく収量は少ないですが、凝縮した赤ワインが生まれるのです。

プリオラートの歴史

ワイン造りは12世紀に移り住んできた修道士がブドウを持込んだことからはじまりました。『プリオラート』は修道院を意味する言葉で、7つの村が修道院の最上位を意味するPriorに属していたことが由来とする説があります。

修道院では収穫を「10月から」と決めていました。そのためブドウの糖度が高くアルコール度数が15~16%にもなるレーズンのような風味のたいへん濃厚な赤ワインが産出されていました。しかし時代とともにこういったワインの需要は減り、急傾斜の畑で働くことを嫌がった若者が地元を去ったことからワイン産業が衰退しました。19世紀にはスペインの他の地域から遅れてフィロキセラ(ブドウ害虫)渦の被害を受けワイン造りが壊滅。住民の流出をさらに加速させて5000haあった畑は再興されることなく600haにまで減少しました。

『4人組』の登場

1979年に「プリオラートのグル(=教祖)」と呼ばれるルネ・バルビエが数ヘクタールの畑を購入してこの地に移り住みました。ワイン一家に生まれ、リオハの名門ワイナリーで働いていた彼はこの地をたびたび訪れて潜在的な力にインスパイアされました。熟練した腕をもつ友人に栽培と醸造技術の革新を呼びかけ新しいワイン造りに挑戦。1989年のヴィンテージが出回ると世界のワイン関係者を驚かせ「4人組」は一躍スター醸造家になりました。

プリオラートワインの味わい

ルネ・バルビエらが購入した、打ち捨てられていた畑には樹齢の高いガルナッチャ、カリエニャ(カリニャン)が残されていました。これにカベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、シラーといったフランスの品種をブレンドして濃厚かつ洗練されたスタイルに変貌を遂げました。そのためプリオラートのワインは凝縮感とミネラルの感じられる赤ワインが特徴的です。

プリオラートの現在

『4人組』のあとを追ってプリオラートにはペネデスはもとより遠くは南アフリカからも入植者が相次ぎました。2018年には栽培面積が19,000haにまで増えています(その3割は斜度30°を超える急傾斜の畑です)。村名ワインを構想した区画分けがされていて、地形ごとに12の地区があります。どこの地区からもリコレリャ由来の味わいの違いを楽しむことができます。現在ワイナリー(ボデガ)が100を超える銘醸地です。

  • 市町村名ワイン(Vi de Vila/ビ・デ・ビラ)※12地区
  • 区画名ワイン(Vi de Paratge/ビ・デ・パラッチェ)※459の単一畑または区画畑
  • 格付け畑ワイン(Vinya Classificada/ビーニャ・クラシフィカーダ)
  • 特級畑ワイン(Gran Vinya Classificada/グラン・ビーニャ・クラシフィカーダ)

の格付けがあります。

プリオラートのブドウ品種

最も広く栽培されているのはカリエニャ(カリニャン)で、とくに北部で盛ん。比較的涼しい畑に植わったグルナッシュの古木は高く評価されていています。近年植樹された外来の品種にはカベルネ・ソーヴィニヨンやメルローといったフランス品種が見られますがとくにシラーが成功を収めています。

カタルーニャ南部のDO

カタルーニャ州には小規模ながら魅力的なDO(ワイン産地)が集まっています。南部の重要なDOをみてみましょう。

モンサン

タラゴナから2001年に独立したDOで、プリオラートを取り囲むように隣接しています。リコレリャ土壌ではありませんのでプリオラートほど土壌は恵まれていませんが、地中海性気候で海風とモンサン山脈の影響を受け寒暖の差が大きく色の濃いしっかりした赤ワインや甘口ワインが造られます。

タラゴナ

カタルーニャのワイン産地を南北に分けるとすれば、南部を代表する産地が『タラゴナDO』です。従来は『プリオラート』も『モンサン』もタラゴナの一部だったことがその背景にあります。丘陵地ではカヴァの原料ブドウが栽培されて、平地部分では伝統的な甘口ワインなどが造られます。70%が白ワインで、フルーティでソフトな味わいが特徴です。

テラ・アルタ

タラゴナの南西にある高地で内陸部にあります。そのため寒暖差が大きく土壌は石灰質でやせています。暑くて日照量が多くなっており、人気が高まっている土着品種ガルナッチャ・ブランカは世界生産量の1/3を占めています。テラ・アルタの白ワインはフルボディですが、近年優美さが高まっており、軽やかさも増しつつあります。赤ワインは色が濃く果実味が豊か。外来品種の栽培も認められており、モダンなブレンドワインが増えています。

カタルーニャ北部のDO

ペネデスと『カヴァ(スパークリングワイン)』


ペネデスは、1872年に『カヴァ』(カバ=スペインを代表するスパークリングワイン)が造られるようになったことでスペインを代表するワイン産地として知られるようになりました。カヴァのうち95%をカタルーニャ州産が占めており、『ペネデス』の中心地とその周辺の肥沃なエリアが大部分を供給しています。バルセロナから南に40kmほどの車で1時間もかからない距離にあり、もともとローマ人の足跡が残る古くからのワイン産地でした。

スティル(非発泡性)ワインの生産も1970年代に本格化しており、スペインでいち早く醸造施設の近代化が行われ、技術革新と畑の新品種導入や栽培方法の変更が行われました。

ペネデスは気候条件により3つのゾーンに分けられており、それぞれに合わせたブドウ品種が栽培されています。それに赤白ロゼの色別、単一品種やブレンドまで様々なスタイルがあります。

  • ビノ・デ・マシア(Vino de Masia)樹齢10年以上
  • グラン・ビノ・デ・マシア(Gran Vino de Masia)樹齢25年以上、改植した場合は25年以下のものが畑の1/4以内

『マシア(カタルーニャ語でマス)』は、フランスのブルゴーニュ地方でいう『ドメーヌ』のようなもので、様々な条件をクリアした場合には上記2表記が許可されます。

エンポルダ

州最北端のフランス国境にある産地。北からの冷たい風の影響を受けて気温が和らぎます。紀元前5世紀にフェニキア人がこのエリアで最初のブドウ栽培を伝えたとされるロセス(Roses)の街があります。

プラ・デ・バジェス

「バッカス」に由来するとされるバジェスは、在来品種の黒ブドウ「スモイ」と白ブドウ「ピカポル・ブランコ」(フランス、ラングドック地方の「ピクプール」)に代表されます。ローマ時代から続くワイン産地ですがフィロキセラ禍後に衰退して以来小規模になっています。

アレーリャ

バルセロナの北東にある小さな産地。地元で「パンサ・ブランカ」と呼ばれるシャレロ種などを使った白ワインがメインです。

カタルーニャ内陸部のDO

コンカ・デ・バルベラ

バルセロナ西側の内陸奥部にあります。コンカはスペイン語で「窪地」を意味し、周囲を山脈が取り巻く涼しい産地。

コステルス・デル・セグレ

運河の大規模開発により生まれました。カリフォルニア大学デイヴィス校との共同研究が行われ、在来品種に加えてシャルドネ、カベルネ・ソーヴィニヨンなどの国際品種と最新技術を駆使した醸造が盛ん。スペインワインの技術革新にとって最前線に位置づけられています。

カタルーニャ全域のDO

カタルーニャ

次第に知られるようになってきているDOで、カタルーニャ全体をカバーしています。各地区のワインをブレンドすることが可能で2001年に認定されました。背景にはDOペネデスが大規模な生産者にとっては制約が多いためその受け皿として必要とされたことによります。型にはまらない意欲的な生産者は気候変動を見据えて標高800mの場所に畑を開き、収量を抑えて栽培しています。

自社畑のブドウ100%で生産されたものに『カタルーニャ・ビニェロ(Catalunya Vinyero)』の表記が認められます。

関連コラム

参考
大滝恭子、長峰好美、山本博/『スペイン・ワイン』/2015年
スペイン大使館経済商務部 発行冊子/『スペインのワイン』/2006年
ヒュー・ジョンソン、ジャンシス・ロビンソン/『世界のワイン図鑑 第8版』/ガイアブックス/2021年
一般社団法人日本ソムリエ協会/『日本ソムリエ協会 教本2023』/一般社団法人日本ソムリエ協会(J.S.A.)/2023年

カタルーニャ/カタルーニャとバルセロナ/カタルーニャ州政府貿易投資事務所/2024.3.22閲覧
http://www.invest-in-catalonia.com/catalonia.html

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