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ワインのキホン

『マセラシオン・カルボニック』って何だ?方法・特徴を解説

『マセラシオン・カルボニック』って何だ?方法・特徴を解説

ブドウの収穫からわずか数週間でワインが完成する醸造方法『マセラシオン・カルボニック』の解説です。フランスの新酒『ボジョレー・ヌーヴォ』やイタリアの『ノヴェッロ』など、様々なワイン産地で広く用いられています。特徴と工程をみてみましょう。

マセラシオン・カルボニックとは

ワインを醸造する醗酵方法のひとつで、主に赤ワインに用いられる手法です。炭酸ガス浸漬法ともいわれ、英語ではカルボニック・マセレーション(Carbonic Maceration)ですが、フランス語のマセラシオン・カルボニック(Maceration Carbonique)を使うことが多いです。プロフェッショナルの間では略して単に「マセラシオン」と呼ぶこともあります。

マセラシオン(マセレーション)は、ワイン醸造工程の「醸し」のこと。
カルボニックは、カーボン=炭素(英:carbon)からきており、醸し中に二酸化炭素で醗酵タンク内を満たすことです。

マセラシオン・カルボニックの効果

ブドウを入れた醗酵タンクに炭酸ガス(二酸化炭素)を満たすことで、通常のワイン造りに用いられる「酵母によるアルコール醗酵」とともに『ブドウ細胞内の酵素による醗酵』が起きます。

  • 色素は最大限抽出する
  • タンニン(渋み)が少ない
  • キャンディのようなフルーティな香りを生み出す

という効果があります。
通常の製法よりもかなり短い期間でワインとして製品化でき、早ければ収穫から数週間で完成します。通常の赤ワインは数か月~数年を要しますから、ワイン生産者にとっては経済的なメリットがあります。

ワインの特徴

マセラシオン・カルボニックを用いることで、ワインは美しい紫色を帯び、新鮮な香りで果実感に溢れた口当たりの柔らかくなります。一方でタンニンなどのポリフェノール類があまり含まれないため、若いうちにのむべき短命なワインに仕上がるという側面もあります。

ヌーヴォ(仏)、ノヴェッロ(伊)など『新酒』の場合は解禁日に完成を間に合わせるために用いられ、秋には収穫を祝う季節の味わいとなって人々の喉を潤します。

マセラシオン・カルボニックの種類

タンクを満たす炭酸ガスをどのように添加するかによって大きく2つの種類にわかれます。

通常のマセラシオン・カルボニック

炭酸ガスを満たしたタンクに房のままブドウを入れて密閉して醗酵をスタートさせます。
このとき炭酸ガスはガスボンベからタンクに注入したりドライアイスをタンクに入れたり、人為的に操作します。ドライアイスは温度が低いため、ブドウの温度が目的よりも高い場合(たとえば収穫期が暑い場合など)に有効です。

セミ・マセラシオン・カルボニック(マセラシオン・ナチュレル)

炭酸ガスを人為的にではなく、ブドウのアルコール発酵から得る方法です。英語ではホール・バンチ・ファーメンテーション。タンクに房のままブドウを投入・密閉します。するとタンクの底ではブドウが潰れ、アルコール醗酵が始まります。醗酵で発生した炭酸ガスで徐々にタンク内を満たします。人為的な介入を嫌うナチュラルなワイン造りを行う生産者に取り入られることがあります。

マセラシオン・カルボニックの工程

タンク密閉

炭酸ガスを満たしたタンクに房のままブドウをいれてい密閉します。炭酸ガスを用いるのがふつうですが、酸素をなくすことが出来れば別のガスでも可能です。

細胞内醗酵

酸素が遮断されると、ブドウの細胞内で酵素による醗酵が始まります(繰り返しになりますが、通常の醗酵に用いる酵母ではなく酵素です)。この醗酵により5~15日ほどで3%程度のアルコールが生成されます。グリセリン、コハク酸とマセラシオン・カルボニックの特徴であるフルーティな香りが造られ、リンゴ酸と糖が代謝されて減少します。リンゴ酸が減少するので酸味はおだやかになります。

この過程ではタンニンやアントシアニンといったポリフェノール類が果皮から果肉に移っていくので果肉がピンク色になります。そして様々な化合物が生じ、一部がエステル化してキャンディのようなフルーティさができます。傷ついたり、潰れたブドウでは果皮から果汁が逃げます。傷のない房のままのブドウを用いるのはこのためです。

やがて果皮が柔らかくなり、自重によって自然に潰れていきます。果皮が柔らかくなることで色が出やすいという効果もあります。

酵母による醗酵

果実が潰れて果汁が果実の外に出ると、ブドウに付着している、もしくは添加された酵母によって通常のアルコール発酵がはじまります。ブドウの房が全部液中に沈むまで醗酵させることが多いです。 ここまでで色素が最大限に引き出されます。期間はカジュアルなワインの場合1週間程度、上級のワインなどでは1か月程度です。

搾汁

アルコールが生成されるにつれ、梗や種からタンニンの抽出が進みます。マセラシオン・カルボニックでは、一旦ここで搾汁を行って液体だけを取り出します。それにより色素は抽出されているが、タンニンの抽出が抑えられた液体が得られます。

アルコール醗酵

圧搾してできた液体を別の容器に移して酵母によるアルコール醗酵を続けます。果皮、梗、種子が取り除かれた状態なので色素やタンニンの抽出は起こりません。このアルコール醗酵が終わればワインの完成です。

全房醗酵・全果実醗酵

マセラシオン・カルボニックで起こる、酵素による醗酵を専門用語で細胞内醗酵といいます。細胞内醗酵には傷のないブドウの実が必要なため、ブドウは房のまま(全房)丁寧に扱う必要があります。

全房醗酵

全房を用いる通常のマセラシオン・カルボニック。ボジョレーでは伝統的に全房を使い、セミ・マセラシオン・カルボニックを行います。

全果実醗酵(ホール・ベリー・ファーメンテーション)

全房醗酵を応用した方法。ブドウの房から、果粒をつないでいる梗を取り除いて(除梗)果粒だけを用います。実が潰れやすくなるので、通常のアルコール醗酵の起こる度合いが高くなります。並行して細胞内醗酵も起こるため、フレッシュさや果実味に加えアルコール醗酵由来の骨格も兼ね備えたワインになります。

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【参考文献】
ディヴィッド・バード/『イギリス王立化学会が教えるワイン学入門』/エクスナレッジ/2019年
ジェイミー・グッド/『新しいワインの科学』/河出書房新社/2014年
一般社団法人日本ソムリエ協会/『日本ソムリエ協会 教本2023』/一般社団法人日本ソムリエ協会(J.S.A.)/2024年

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