マスカットの特徴
「マスカット」は、マスカットらしい香りのあるブドウ品種につけられる名前です。「マスカットXXX」や「XXXマスカット」のように呼ばれす。とはいえこのフレーバーはマスカット品種に特有というわけではありません。マスカットではない品種でも変異によって現れることがあり、ワインがお好きな方にはおなじみの「ゲビュツル・トラミネール」などにもマスカット香があります。
マスカットの種類
マスカット品種はじつに200種類以上があり、白・ピンク・黒色と見た目からしても様々です。
近縁なものから、そうでないものまで含まれますが、最も重要なマスカット品種が下図のミュスカ・ブラン・ア・プティ・グラン(モスカート・ビアンコ)です。その子品種が岡山県でおなじみのマスカット・オブ・アレキサンドリア。ひ孫にはマスカット・ベーリーAとシャインマスカットがあります。
マスカット特有の香りとは。名前の由来も
マスカット独特の香りは、「マスカット」の語源を知ることで分かります。この名前は南アジアの「雄ジャコウジカの腺(香嚢/こうのう)」の香りに由来しています。5世紀に希少な香料として用いられた『ムスク』のことで、これに似た香りがするブドウに「マスカット」の名前が付けられるようになっていきました。
日本のマスカット
日本でよく知られているマスカット品種には3つあります。
- マスカット・オブ・アレキサンドリア
- シャインマスカット
- マスカット・ベーリーA
マスカットと、シャインマスカットの違い
シャインマスカットは、マスカット(オブ・アレキサンドリア)の孫にあたる別品種です。日本の農業、嗜好事情に合わせて開発されました。その違いは大きくこのようになっています。
マスカット | シャインマスカット | |
---|---|---|
種なし処理 |
しない(風味が落ちると考えられる) |
する |
粒の大きさ |
大きい |
より大きい |
日本での栽培 |
できる |
よりしやすい |
マスカット・オブ・アレキサンドリア(Muscat of Alexandria)
日本で一般的に「マスカット」と呼ばれる品種です。
非常に歴史の古い品種で、南イタリアからサルデーニャ島、シチーリア島一帯を指す「マグナ・グラエキア」が起源です。カルタゴ人がシチーリア島を支配していた紀元前6~3世紀にはジビッボZibibbo(アラブ語でレーズンを意味するzabibに由来したと考えられる)と呼ばれていましたが、この品種が1713年のパリで「マスカット・オブ・アレキサンドリア」の名前で紹介され、世界に広まりました。近年のDNA解析によって親となった品種(ミュスカ・ブラン・ア・プティ・グラン×AXINA DE TRES BIAS※の自然交配)が判明しました。
世界ではワインになることがありますが、日本でも当初は同じ目的でした。
日本での栽培は1880年、兵庫県加古川市「播州葡萄園」での国営ワイン事業が最初。岡山県の学問グループが試食した際に感動したことをきっかけに、1886年に岡山県での栽培がスタートしました。現在では全国シェア95%を誇る一大産地になっており、食用に用いられるのが一般的です。
※AXINA DE TRES BIASは、サルデーニャ島、マルタ島やギリシャの島々で栽培される黒ブドウです。
代表的な別名
ジビッボ/Zibbibo(シチーリア島・イタリア)
モスカテル/Moscatel(アンダルシア地方・スペイン)
タマイオアサ・ロマネアスカ(ルーマニア)
シャインマスカット(Shine Muscat)
広島県で作られた日本生まれの品種です。ブドウ消費を拡大することを目的に、マスカット・オブ・アレキサンドリアとアメリカ系品種の「スチューベン」、さらに「白南」をかけ合わせて生まれています。
つまり、マスカット・オブ・アレキサンドリアの「孫」にあたる品種です。
ヨーロッパ系品種の香りのよさと食感、病気に強いアメリカ系品種の栽培のしやすさを兼ね備えており、大粒で皮ごと食べられる性質があります。また、種なし果実の栽培ができ、糖度が高くバランスのよい酸味があります。日持ちの良さも特徴で瞬く間に日本を代表する品種になりました。
マスカット・ベーリーA(Muscat Bailey A)
シャインマスカットと同じ、マスカット・オブ・アレキサンドリアの子に当たる黒ブドウ品種です。
新潟県の「岩の原葡萄園」で川上善兵衛によって1927年に生み出されました。雨や湿度の多い日本の気候に適応しワインの生産用に向くブドウで、適度な酸味とキャンディのような甘いフルーツの香りが特徴です。
美味しいブドウの見分け方
一般的にブドウは房の上側が先に甘く熟し、先端にいくほど酸味が強くなります。
ワインの場合、作柄が悪い年にブドウの先端を落として房全体に甘味がのるように畑で操作することがあります。先の方が甘いと房全体が甘いので、試食して買うような場合は参考に。
見た目で判断する場合は、
- 軸が緑色で太くしっかりしている
- 粒に張りがあって大きさがそろっている
- 黒系と赤系は色が濃いもの、黄緑系は色が鮮やかなもの
が良いとされています。
世界のマスカット
世界で重要な位置を占めているのは、とくにワインの世界においては日本でもおなじみの『マスカット・オブ・アレキサンドリア』とその親品種『ミュスカ・ブラン・ア・プティ・グラン』です。
この2つには少なくとも14品種の子孫品種があり、マスカットグループの中で重要なファミリーを構成しているものと考えられています。子品種で知られたものでは、イタリア品種の『グリッロ』や『アレアティコ』などです。
ミュスカ・ブラン・ア・プティ・グラン(Muscat a Petits Grains Blanc)
世界で最も重要なマスカットです。マスカット・オブ・アレキサンドリアの親となった品種で、日本のマスカット群もここから派生しています。最も古い記録と考えれるものがイタリアに残されていますが起源は定かではありません。
小粒で最も古く名高い品種ですが、栽培は極めて困難でイタリアとフランスが世界の約60%を産出しています。その多くはワイン造りに用いられます。
味の特徴
辛口から甘口、酒精強化ワインまでスタイルは様々ですが、そのアロマはデリケート。フローラルでスパイシーさもあります。
代表的な別名
ミュスカ・ブラン/Muscat Blanc(フランス)
モスカート・ビアンコ/Moscato Bianco(イタリア)
Moschato Samou(ギリシャ)
産地と銘柄
フランスのアルザス地方ではグランクリュ(特級畑)で栽培する品種の一つに「ミュスカ(※)」を指定しています。「リースリング」「ピノ・ブラン」「ゲビュツル・トラミネール」とともに高貴品種と呼ばれています。
フランス南部のラングドック・ルーション地方では、「ヴァン・ドゥー・ナチュレル」と呼ばれる伝統的な酒精強化ワインが造られており「ミュスカ・ド・リヴザルト」の指定ブドウにされています。また、この品種から造られる軽い辛口の白ワインも人気です。
もう一つ重要な産地はイタリアのピエモンテ州。発泡性のある軽い甘口「アスティ」や、「モスカート・ダスティ」は世界的に愛される銘柄です。
※アルザス地方のミュスカは、通常「ミュスカ・ブラン・ア・プティ・グラン」と「ミュスカ・オットネル」のブレンド。このほかに「ミュスカ・ローズ・ア・プティ・グラン」も認められています。
ミュスカ・オットネル(Muskat Ottonel)は1839年にフランスのロワール地方で育成家の手によって開発されました。シャスラ(Chasselas)×Muscat d’eisenstadtの交配品種。香りの強い、ソフトなワインができます。
世界のマスカット系ワインをご紹介
マスカット・オブ・アレキサンドリア
シチーリア島の別名「ジビッボ」100%で造られたオレンジワイン
ルーマニアの別名「タマイオアサ・ロマネアスカ」100%
ミュスカ・ブラン・ア・プティ・グラン
イタリアでの呼び名「モスカート・ビアンコ」の発泡性ワイン。マスカットらしいアロマと優しい甘味。
フランス南部の軽い辛口
スペイン産の辛口
日本と世界で有名な4つの『マスカット』を解説しましたが、このブドウはとても奥深い品種です。食べたり飲んだりしながら身近なマスカットを是非楽しんでください。
関連コラム
参考
ジャンシス・ロビンソン、ジュリア・ハーディング、ホセ・ヴィアモーズ/『ワイン用葡萄品種大辞典』/共立出版株式会社/2019年
ヒュー・ジョンソン、ジャンシス・ロビンソン/『世界のワイン図鑑 第8版』/ガイアブックス/2021年
シャインマスカット/農研機構/2025年3月25日閲覧
https://www.naro.go.jp/collab/breed/0400/0411/001262.html
「シャインマスカット」ってどんなブドウ?/農研機構/2025年3月25日閲覧
https://www.naro.go.jp/laboratory/nifts/shine-muscat/about.html
マスカット・オブ・アレキサンドリアの持続的生産に関する考察と農芸品思想/兵庫県立大学/2025年3月26日閲覧
ttps://www.u-hyogo.ac.jp/mba/pdf/SBR/1-2/189.pdf
岡山マスカット創始者のものがたり/岡山市/2025年3月26日閲覧
https://www.city.okayama.jp/museum/muscat-game/sousisya/sousisya_muscat.htm
岡山県/総務省/2025年3月26日閲覧
https://www.soumu.go.jp/main_content/000444938.pdf
ブドウ新品種’シャインマスカット’/農研機構/2025年3月26日閲覧
https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/files/naro-se/fruit7_03.pdf
ぶどうを味わう/農林水産省/2025年3月27日閲覧
https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/1905_06/spe1_06.html