法律上の決まりには登場しない
シャンパーニュ好きの方の中には銘柄の中に「ネクター」という商品があるのをご存じの方も多いかと思います。この「ネクター」はシャンパーニュ・メーカーがよく甘口のシャンパーニュの銘柄名に使用している言葉です。シャンパーニュは、製造工程の最後に添加される「門出のリキュール」の糖分量によって甘辛度の表記が変わります。
規定では、
表記 | 読み | 残唐量 |
---|---|---|
Brut Nature | ブリュット・ナチュール | 3g/L未満 |
Pas Dose | パ・ドゼ | 〃 |
Dosage Zero | ドザージュ・ゼロ | 〃 |
Extra Brut | エクストラ・ブリュット | 0~6g/L |
Brut | ブリュット | 12g/L以下 |
Extra Dry | エクストラ・ドライ | 12~17g/L |
Sec | セック | 17~32g/L |
Demi-Sec | ドゥミ・セック | 32~50g/L |
Doux | ドゥー | 50g/ L以上 |
と決められています。市場に一番多く商品が出回っている「ブリュット=辛口」は12g/L以下ということがこの表でわかります。しかし、この表の中には肝心の「ネクター」に対する取り決めは見当たりません。
シャンパーニュ地方の慣習
「ネクター」はAOP法上の甘辛度の規定には存在しない名称です。シャンパーニュ地方で「慣習的」に使われるようになった用語で、「やや甘口」の場合にNectar(ネクター)という名前が使われています。
ネクターの歴史
語源となっている「ネクタル」は、ギリシャ・ローマ神話の「不死の生命を与える神酒」のことです。転じて「花の蜜」と、甘い飲み物を指す言葉になりました。これは砂糖が貴重品だった時代、甘いものへの憧れからそのようになったという歴史的な背景があります。さらに近代から現代では「果汁に甘味料を添加したジュース」を表すようになりました。
今ではピーチ・ネクターやマンゴー・ネクターのような商品でなじみのある言葉になったわけですが、「果実を想わせるようなほんのりした甘味」がシャンパーニュでいうところのネクターの特徴かと思います。
「あそび」を忘れないシャンパーニュ
甘辛度の表記規定に関しての余談ですが、糖分量が規定値とピタリ一致したとき、例えば17g/Lではエクストラ・ドライ、セックのどちらになるのでしょうか。それは「生産者の判断」に任されます。どのカテゴリーでも規定の上下3g/Lまでは「生産者の判断でどちらでもよい範囲」とされていて、この遊び部分を「トレランス」といいます。ソムリエの試験問題にも出てこないような雑学ですが、シャンパーニュを飲んでいるときの話題にしていただけましたら幸いです。