リースリングとは
世界中で栽培されている白ワイン用のブドウ品種。豊かな酸味が特徴で、ファンの多い有名品種です。
辛口のみならず、やや甘口や、デザートワインと呼ばれる貴腐ワインやアイスワイン、さらには発泡性があるものまで、どのスタイルも高品質でバランスが良いのが特徴です。しっかりとした酸味を備え、アロマティックで繊細、独特の風味があり味わいのバラエティが豊かです。
土壌の特徴をそのまま映し出す、まるで鏡のような品種。栽培は難しいですが、生産者に甲斐を与えます。
リースリングの発祥と歴史
リースリングの出生は不明で決定的な説はありません。
原産地はドイツとされるのが有力で、一説によるとその中でもファルツ地方とされています。オーストリアにあるリッリング(Rizling)畑が起源という説もあります。
以前はヴァイサー・ホイニ ッシュとヴィーティス・ジルヴェストリスの自然交雑、あるいはヴィーティス・ジルヴェストリスとトラミーナーの交配品種とヴァイ サー・ホイニッシュの自然交雑ではないかといわれていました。しかし現在ではDNA鑑定の結果、片親がグエ・ブランであることが分かっています。グエ・ブランは自身こそ凡庸なワインしか生まず今や絶滅危惧種ですが、シャルドネやガメイといった重要品種の親となった歴史的に貴重な品種です。リースリングもその兄弟ということになります。
リースリングに言及している文献で世界最古のものは、1435年のリュッセルスハイム市の会計明細書で、ここにリースリングの苗木6本の売買記録が登場します。ドイツと関わりの深いフランスのアルザス地方では白ブドウの高貴品種とされている4品種のうちのひとつ。重要な品種に位置づけられています(リースリングのほかはゲビュルツ・トラミネール、ピノ・グリ、ミュスカです)。
リースリングのワインはどんな味?
最大の特徴は、酸味が強いこと。鋭利な酸、骨太な酸、一本筋が通った酸・・・など、様々な言い方で酸味の豊かさが表現されます。
ただ酸っぱいわけではありません。香りと味わいが豊かで魅力的。
白い花・ライム・洋梨の香り。フレッシュなタイプだと青リンゴ、グレープフルーツのような爽やかさがあり、熟したタイプだと黄桃、パッションフルーツ、パイナップルのような風味があります。また熟成が進むと石油のような香りを帯び、クリーミーで複雑な風味になってきます。
ボリュームがあって力強いタイプというよりは、気品にあふれた繊細なタイプです。
リースリングは長期熟成が得意な品種でもあります。寝かせるほどに味わいが複雑に変化し、若いワインには感じない“味わいの熟成美”を感じることができます。ワイン界の権威、MWジャンシス・ロビンソン氏いわく「世界で最も高貴な白ワイン用ブドウの一つ」というのも納得です。
一方、甘口ワインにも向く品種でもあります。強い甘みがあっても、シャープな酸味が負けません。はちみつレモンのような甘みと酸味のバランスに優れたワインに仕上がります。
ですので、最も高貴な品種でありながら、ワイン初心者にも親しみやすい品種でもあります。
リースリングは幹・枝が堅め
寒冷地では冬季に樹が凍結した際に水分が膨張して破裂する恐れがあります。そのためリースリングのような樹の堅さはメリットとなります。
リースリングが栽培されている国・地域は?
世界でもっともリースリングを栽培しているのは発祥地といわれるドイツ。次いでアメリカ合衆国(なかでもワシントン州)が続きます。そしてもう一つの伝統国フランス(アルザス地方)がTOP3を形成しています。
国 | 栽培面積(ha) | 州 | 栽培面積(ha) | データ年 |
---|---|---|---|---|
ドイツ |
24,150 |
- |
- |
2020 |
アメリカ合衆国 |
5,014~ |
ワシントン |
3,357 |
2020※1 |
カリフォルニア |
1,481 |
2020 |
||
オレゴン |
176 |
2019 |
||
ニューヨーク |
? |
※2 |
||
フランス |
3,504 |
- |
- |
2019-20 |
オーストラリア |
3,157 |
- |
- |
2020 |
オーストリア |
2,077 |
- |
- |
2020-21※3 |
カナダ |
1,238 |
ブリティッシュコロンビア |
548 |
2020※4 |
オンタリオ |
690 |
2019-20※5 |
||
ニュージーランド |
634 |
- |
- |
2020 |
栽培面積が公表されていない地域の数値は、参考データから算出した参考値です。
※1 ワシントン州のブドウ栽培面積(24,281ha)と品種別生産量の比率から算出
※2 州の主要品種のひとつだが数値データはなし。ブドウ栽培総面積は14,164ha(2019)
※3 国全体のブドウ栽培面積(46,164ha/2020)と栽培比率(4.5%/2021)から算出
※4 2019の品種別生産量比率と、ブドウ栽培総面積(4,249ha)から算出
※5 2020の品種別生産量比率と、ブドウ栽培面積(6,900ha)から算出
産地ごとの特徴
ドイツ
ドイツは世界のリースリングの栽培面積の約6割を誇る世界最大の生産国であり、リースリング発祥とされる地でもあります。国内のワイン産地の全て(13地域)で栽培されており、特にモーゼルとラインガウが2大銘醸地として有名です。
モーゼルはワイン用ブドウ栽培の北限に近く、より酸味が強いのが特徴。スレート土壌からくるミネラル感、ボディは軽めで繊細さと透明感が美しく、長期熟成に向いています。
ラインガウはモーゼルに比べてやや温暖な気候の為、円熟味が増してボディはより重厚。桃やスパイスの風味を持ち、力強さとエレガンスを兼ね備えています。華やかでミネラリー、リッチで深みのあるリースリングができます。
リースリングは寒さに強く、晩熟タイプのブドウ品種です。寒い地域でゆっくり時間をかけて成熟し、真価を発揮します。ブドウ栽培の北限であり、かつ収穫シーズンである秋に雨が少ないドイツはリースリングにとって最適な産地です。
地球温暖化がすすむ以前、昔のドイツは今よりもっともっと寒かったため、ほんの少しの光でも浴びてブドウの成熟につなげようと、河に反射した光を浴びられるような河岸の急斜面にブドウ畑が広がりました。
ライン川沿いに複雑な地形を形成するモーゼルやラインガウに銘醸地が広がるのはそのためです。
ドイツ産白ワインは昔はほとんど辛口だったといわれています。1960~70年頃に高まった需要により甘口の比率が高まった時代がありましたが、現在は再び辛口主流へと転換しています。そういった時代背景からドイツの偉大なリースリングには辛口に加えて甘口ワインも存在しています。
フランス
フランスではアルザス地方がリースリングの銘醸地です。ドイツと並んで世界的に有名かつ伝統的です。ドイツには甘口の比率が高まった時期がある(現在は辛口が主流)のに対し、日照の多いアルザスでは古くから辛口でした。
アルザス地方は土壌が複雑で、狭い範囲に様々な土質が表面に出ているという特殊な特徴があります。土壌の個性をそのまま映し出す鏡と言われるリースリングは、その土質の違いを表現する立役者です。
生産者は畑ごとの味わいの違いを出したいという思いにかられ、畑毎に違うワインを仕込むことが少なくありません。ワインに畑名を明記した複数の銘柄をリリースする生産者もあれば、最終的に複数の畑のワインをブレンドして「アルザス リースリング」として販売する生産者もいます。
ヴォージュ山脈の影響で乾燥が強く、ドイツに比べ太陽をしっかり浴びることができるアルザス地方は、リースリングの果皮が厚く力強くなります。味わいは、アルコールが高くボリューム感のある、リッチな味わい。果実味と酸味のバランスが素晴らしいワインが生まれます。
オーストリア
オーストリアの白ワインは固有品種グリューナー・ヴェルトリーナーが最も重要な位置を占めますが、歴史的にドイツとの関係が深いことからリースリングも栽培されています。そもそもリースリングはオーストリアにあるリッリング(Rizling)畑が起源という説もあるほどです。栽培面積は1999年から2020年の間に約13%増加しており、人気急上昇中の品種といえます。
生産地としてはヴァッハウやカンプタールが有名です。本場ドイツよりは比較的温暖ですが、遅摘みすることで非常にゆっくりと成熟したブドウを収穫することができます。フルボディで辛口、若干スパイス風味のあることがオーストリアのリースリングに個性を与えています。
アメリカ合衆国
ワシントン州がリースリングの産地として最も有名で、生産面積も最大です。
フローラルな香りと、鮮やかなあんずや桃のような味わいが特徴です。辛口が主ですが、一部は甘口のレイト・ハーヴェスト(遅摘みワイン)となり、時として起こる「貴腐」はリースリングに魔法をかけて、糖分と香りを凝縮させ、濃密な味わいになります。またブドウの凍る冬期まで収穫を待てば、その見返りにアイス・ワインが生み出されることもあります。料理との相性に優れた辛口からやや辛口のものが中心です。
カナダ
冷涼な気候であるカナダは極甘口の「アイスワイン」が有名です。寒さに強いリースリングは栽培に適しており、近年では辛口のリースリングを造るワイン生産者も増えてきました。高品質なワインを造る産地としては2番目の生産量となるオンタリオ州がメインの産地で、五大湖の風に恩恵を受けながらブドウが造られています。
オーストラリア
主に辛口が造られます。オーストラリアの中でも冷涼な南オーストラリア州のクレア・ヴァレーやイーデン・ヴァレーが有名です。ドイツやアルザスに比べるとより温暖ですが、夜は冷たい風が吹くので、昼夜の寒暖差が激しくブドウはゆっくり成熟します。
ドイツやアルザスなどの有名産地に比べると比較的酸味が穏やかで、果実味が豊か。ボディの強さとエレガンスが同時に押し寄せるような味わいです。
ニュージーランド
気候が冷涼なワイン産地として知られるニュージーランドでも質の高いリースリングが栽培されています。中でもセントラル・オタゴ産が有名。ニュージーランドはもともと涼しい気候を生かして造られる、美しい酸味のソーヴィニョン・ブランや、ピノ・ノワールのワインが世界的に有名になって人気が広まっていった国です。リースリングのような晩熟の品種との相性がよいことは想像に難くありません。
リースリングの独特の香り「ペトロール香」とは
リースリングのワインには特有の「ぺトロール」と言われる香りがあります。「石油のような」とも表現されるその香りは、それって美味しいの?と思われるような名前ですよね。もちろんワインによい影響をもたらす場合が多いものです。こちらについて紐解いていきましょう。
ぺトロール香のでる理由
リースリングの特徴であるぺトロール香は研究で原因物質が判明しています。TDN(トリメチルデヒドロナフタリン)といい、ブドウのもつカロチノイドが醸造や熟成によって分解されることで生成されます。カロチノイドは、ブドウが直射日光や高温からみずからを守るために果皮に蓄積する成分で、黄色やオレンジ色または赤みをおびた色調をしています。TDNはどんな品種のブドウ品種にも含まれていますが、リースリングはTDN、カロチノイドの含有量が最も高い品種のひとつ。また、ほかの芳香成分が少ないためぺトロール香が目立つようになります。
リースリングのカロチノイド値が上がる条件
低収量、ブドウの成長期が温暖である、果実が日光に当たる時間が長い、ブドウが水不足のストレスを感じる、土壌の窒素レベルが低い、といったことが要因に挙げられます。
ぺトロール香とワインの熟成
すべてのリースリングワインは、一定の熟成期間を過ぎるとぺトロール香が現れます。熟成を経て現れるぺトロール香は、リースリングの果実香と溶け合って大変優れた香りになります。熟成した良いリースリングワイン、飲んでみたくなりますね!
リースリングの交配品種
リースリングを親として様々な交配品種が誕生しました。1970年代初頭のドイツで新交配品種がもてはやされていたことが背景にあります。
ミュラー・トゥルガウ
リースリング×マドレーヌ・ロワイヤル
1882年ドイツのガイゼンハイム研究所でヘルマン・ミュラー教授(1850〜1928年)が交配したものです。教授はスイスのトゥルガウ州出身で、彼の名前と出身地が品種名につけられています。ブドウは多産で収穫量が高く、ドイツ国内に広がって現在でもリースリングに次いで2番目に栽培されている品種。ワインはシンプルで飲みやすいスタイルです。若々しく軽やかでフレッシュな味わいなため、デイリーなワインにぴったりです。
ショイレーベ(scheurebe)
リースリング×ブケットトラウベ(Buketttraube)
1916年にドイツ、アルツァイの国家ブドウ栽培施設でゲオルグ・ショイ博士が交配。彼は自分の交配した若い苗木の全てに順に番号を振っており、実生番号が88番であったゼームリング88がショイレーベとなった経緯があります。ファルツ地方で多く栽培されており、力強い香りはトロピカルフルーツ、桃、熟した洋梨を連想させます。前菜からデザートに至るまで、アロマティックでスパイシーな料理と良く合います。
ケルナー
トロリンガー(黒ブドウ)×リースリング
ヴァインスベルクの詩人で医官だったユリウス・ケルナー(1786〜1862年)にちなんで命名されました。ファルツ地方で栽培され、ドイツ全土でも栽培されるようになりました。栽培面積は1992年に7,826haに達して過去最高となりましたが、それ以降は減少傾向。2020年の栽培面積は2,257haです。「リースリングのちいさな親戚」と呼ばれ、ワインは明るい色調の黄色。香りはリースリングよりもアロマティック。酸味のアクセントがあり、アロマは繊細かつフルーティで、洋梨、りんご、アプリコットなどを連想させます。
バッフス(bacchus)
(シルヴァーナ×リースリング)×ミュラー・トゥルガウ
1930年代にペーター・モリオとジーベルディンゲンの連邦ブドウ栽培研究所のフスフェルト博士が共同で、生み出しました。リースリングと正反対の早熟品種で、糖度があがりやすく、リースリングに適さない畑での栽培が可能。繁殖力が旺盛で、ミュラー・トゥルガウなみの収量が得られることから人気になりました。1990年代初頭にピークを迎えましたが、以後は減少傾向。2022年時点での栽培面積は1,614haで、畑の大部分がラインヘッセン地方とフランケン地方にあります。ワインはフローラルな香りとマスカットに似た香りが特徴です。
リースリングの別名
ワインのブドウ品種には、国や地域によって同じブドウ品種に別名(シノニム)がつくことがあります。以下はリースリングと同じブドウです。
『ホワイトリースリング』
アメリカ合衆国での呼び名です。
『ヨハニスベルク・リースリング』
これもアメリカ合衆国での呼び名。現存する世界最古のリースリングの畑、ラインガウのヨハニスベルクに由来しています。
『ヴァイサー・リースリング』『ライン・リースリング』
ともにリースリングと同じ品種の別名です。その他、バーデン地方ではリースリングから造られたワインのことを「クリンゲルベルガー(Klingelberger)」と呼ぶことがあります。
リースリングとは関係のない品種
『リースリングイタリコ(riesling italico/伊)』
オーストリア、イタリア、東ヨーロッパなどで広く栽培されている品種。リースリングとは別物です。ヴェルシュリースリング(welschriesling)/仏、オラスズリズリング(olaszrizling)/ハンガリーなどの別名があり、いずれもリースリングとは関係ありません。
フルコースを、全部リースリングでも楽しめる
筆者は2013年の春に初めてドイツとアルザスに訪れ、4つの生産者を回りました。たくさんのワインを試飲させていただいたほとんどがリースリングで、酸の強さに口の中が痛くなったほどです。
思い出深いのはレストランでのお話。
一般的には「赤ワインには肉料理、白ワインに魚料理」が通説ですが、ドイツでのレストランではメインの肉料理にも辛口のリースリングを合わせていました。それがもう驚くほどよく合って、とても美味しかったことを覚えています。乾杯は中辛口のスパークリングワイン、前菜(ホタテなどの魚介類と旬の春野菜ソテー)には軽めの辛口、メイン(牛肉)では偉大な特級畑のリースリング、デザートにはトロッケンベーレンアウスレーゼ(極甘口)。
酸味があるので、食事が重くならずすっきりと次のお皿に進むことができます。白ワインだけでフルコースをいただく楽しさを知ることができました。
偉大なドイツ白ワインの熟成美
2023年の春、1986年産のシュタインベルガー(クロスター・エーバーバッハ)を飲んだときのこと。ドイツワインの階級の中でも、特別単一畑(オルツタイルラーゲ)という特別な畑です。知る人が見れば、ラベルを見るだけでよだれが出てしまうような偉大な古酒。
相当わくわくしながら抜栓し、グラスに注ぐと...
37年もの時を経たとは思えないキラキラとした輝きがあり、うっとりするような黄金色の液体、グラスからはまだまだ若々しい果実味が沸き立っていました。ほのかなぺトロール香があり、上質な個性の一つとして溶け込んでいました。
ブドウが持っていたすべての要素が溶け込み、繊細な織物のような美しさがありました。まだまだ熟成しそうですが、今飲んでも本当に価値ある1本でした。こんな素晴らしいワインに出会えたことに感謝し、また明日からも頑張ろう・・・、 と思いました。ワインって開けて飲むだけなんですが、そこにはドラマが詰まっていますね。こんなに面白い飲みものってないな、と私は思います。
あとがき
リースリングの魅力について、少しでも知っていただくことができれば幸いです。読んでいただき、ありがとうございました。
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参考
一般社団法人日本ソムリエ協会/『日本ソムリエ協会 教本2022』/一般社団法人日本ソムリエ協会(J.S.A.)/2022年
田中克幸、岩城ゆかり/『オーストリアワイン ガイドブック』/美術出版社/2005年
三谷 太/『日・仏・英・伊 4カ国ワイン用語集』/飛鳥出版/2007年
『Winart』/美術出版社/2021年春号 No.103/白ワイン品種の最新ガイド
オーストリアワイン/『リースリング (RIESLING)』/2023年3月6日閲覧
https://www.austrianwine.jp/our-wine/rebsortenjpn/weissweinjpn/riesling
ドイツワイン インスティテュート/『ドイツワイン セミナーハンドブック』/2023年3月6日閲覧
https://www.deutscheweine.de/fileadmin/user_upload/9733_German_Wine_Manual_2017_JP.pdf
ワインカントリー オンタリオ/『世界地図の中のカナダ』/2023年3月6日閲覧
https://winecountryontario.ca/wp-content/uploads/2019/05/canada_postcard_japanese_2015.pdf