リオハの歴史
スペインの赤ワイン産地で最も早くから有名だったリオハですが、その理由は歴史をみることでわかります。
リオハの名前の由来はエブロ河の支流オハ川(リオ・オハ)です。この辺りでは古代ローマ人が支配する前の時代からワイン造りが始まっていて大変古い歴史があります。しかし産業としてワイン造りが発達したのは19世紀末のことです。1850~60年代にフランスで発生したフィロキセラ(ブドウ害虫)禍期に、とくに被害のひどかったフランスのボルドー地方から多くの生産者や業者がリオハに流入しました。地理的に比較的近かったことやスペイン貴族たちがボルドーとの交流があったころが背景にあります。これがリオハの大転換につながりました。
ボルドー商人が好むワインを造るため、除梗、大樽澱引き、卵白を使った清澄などのボルドーと同じ新しい技術がリオハで取り入れられるようになりました。それまでアメリカンオークの大樽で醗酵・熟成させるのが主流だったスペインにおいて小樽での熟成が用いられるようになったことは革新的でした。新技術に柔軟になったリオハのワインはさらに洗練されていきました。
リオハワインの特徴
赤ワインの生産量が多く、リオハ全体の88%を占めています。オーク樽でじっくりと熟成されるテンプラニーリョ種を中心に口当たりの良さ、果実味、バランス、熟成感などで世界屈指の赤ワインとして賞賛されています
気候が穏やか
ワイン産地「リオハ」のうち、最も大きな面積を占めるのは、州都をログローニョに置くラ・リオハ州です。エブロ河の上流と、支流オハ川に沿って広がっており一部はバスク州、ナバーラ州にまたがります。西の大西洋と東から吹く暖かい風の影響を受け、そこにエブロ河がもたらす要素が加わり独特の気象条件になります。南西にあるデマンダ山脈が中央高地からの熱波を遮り、北のカンタブリア山脈がビスケー湾から吹く冷たい北西風を防ぐため夏・冬とも穏やかな気候です。
ワインの味
リオハワインには多種多様なタイプがありますが、「熟成」は大きなキーです。とくに赤ワインのリセルバやグラン・レセルバのように熟成期間が長いものは円熟した味わいと高い香り、エレガントな飲み頃なものが特徴です。よく熟したブドウのアロマに加え、ブラックペッパー、赤果実、ドライハーブ、なめし皮やスターアニスのような複雑なブーケが感じられます。タンニンは落ち着きがありまろやか。白ワインは樽を使ったコクのあるタイプと、使っていない新鮮でシャープな酸味のあるタイプに大きく分かれます。
おすすめの銘柄・生産者
スタンダードなリオハの赤
小樽で1年間熟成した『クリアンサ』
より長い熟成を経た『レセルバ』
リオハワインに合う料理
仔羊肉を焼いた料理
乳飲みの仔羊肉を焼いた料理。部位はスペアリブなどを使い、選定した枝で炙り焼きにすることもあります。
煮込んだ豆の料理
ポチャという豆を、チョリソなどと煮込んだ料理。ポチャはスペインのサヤインゲンの一種で、ラ・リオハ州とナバーラ州が原産です。
赤ピーマンの肉詰め
日本でも再現しやすい料理。ハーブを強めにきかせるとワインに合わせやすくなります。
リオハのブドウ品種
テンプラニーリョ
リオハ、ナバーラ地方が原産で、国内各地で広く栽培されるスペインの代表的な黒ブドウです。高級ワインの生産にはほとんどの場合で使用されています。名前の意味は「早熟」で、名前の通り成熟が早く樹勢が強めです。高地の厳しい環境でもよく育ちます。「ガルナッチャ」に比べて二週間ほど早く収穫されます。
その他の黒ブドウ
従来品種
ガルナッチャ(グルナッシュ)、マスエロ(カリニャン)、グラシアーノ
追加認定された品種(2007年)
マトゥラナ・ティンタ(伝統的で絶滅危惧種だったのが復活)、マトゥルナ・パルダ、モナストレル(ムールヴェードル)
白ブドウ
従来品種
ビウラ(マカベオ)、ガルナッチャ・ブランカ、マルバジア
追加認定された品種(2007年)
シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン、ベルデホ、マトゥラナ・ブランカ、テンプラニーリョ・ブランコ、トロンテス
ワインを造るときの規則
リオハはスペインに2か所しかないDOCaワインの生産地です。1991年の認定第一号ですが、国のワイン法が成立より前の1926年からすでに地方の原産地保護がはじまっていました。現在はDOCa委員会によって独自の規則が設けられています。
※もう一つのDOCaはカタルーニャ州の『プリオラート』
熟成期間
スペインにはワインの熟成に関する規定が設けられています。クリアンサ、レセルバ、グラン・レセルバといった熟成期間は国の取り決めているルールよりリオハの方が細かく設定されており、樽のサイズが小さく設定されています。リオハワインを特徴づける要素のひとつである樽使いの巧みさは、こういったルールにも表れています。
クリアンサ
Crianza
スペイン全体 | 合計熟成期間 | 樽熟成期間 | 樽サイズ |
---|---|---|---|
赤ワイン |
24か月以上 |
6か月以上 |
330L以下 |
白・ロゼワイン |
18か月以上 |
6か月以上 |
330L以下 |
リオハ | 合計熟成期間 | 樽熟成期間 | 樽サイズ |
---|---|---|---|
赤ワイン |
2年以上 |
1年 |
225L |
白・ロゼワイン |
18か月以上 |
6か月 |
225L |
レセルバ
Reserva
スペイン全体 | 合計熟成期間 | 樽熟成期間 | 樽サイズ |
---|---|---|---|
赤ワイン |
36か月以上 |
12か月以上 |
330L以下 |
白・ロゼワイン |
24か月以上 |
6か月以上 |
330L以下 |
リオハ | 合計熟成期間 | 樽熟成期間 | 樽サイズ | 瓶熟成 |
---|---|---|---|---|
赤ワイン |
36か月以上 |
12か月以上 |
225L |
6か月以上 |
白・ロゼワイン |
24か月以上 |
6か月以上 |
グラン・レセルバ
Grand Reserva
スペイン全体 | 合計熟成期間 | 樽熟成期間 | 樽サイズ |
---|---|---|---|
赤ワイン |
60か月以上 |
18か月以上 |
330L以下 |
白・ロゼワイン |
48か月以上 |
6か月以上 |
330L以下 |
リオハ | 合計熟成期間 | 樽熟成期間 | 樽サイズ | 瓶熟成 | |
---|---|---|---|---|---|
赤ワイン |
60か月以上 |
24か月以上 |
24か月以上 |
||
白・ロゼワイン |
48か月以上 |
6か月以上 |
赤ワインは 合計60か月、最低24か月小樽熟成、36か月の瓶熟成 から変更になりました。
地区名ワイン(Vinos de Zona)
リオハ・アルタ地区
Alta
エブロ河の右岸と、左岸の一角。ワインにボディとコクがあり、酸味が豊富です。熟成させることのできる上質な赤ワインが造られます。
リオハ・アラベサ地区
Alavesa
エブロ河の左岸、バスク州に属する地区です。色の濃い、香りと果実味の豊かな若いうちが美味しいタイプから熟成して向きのものまで様々な赤ワインが造られます。
リオハ・オリエンタル
Oriental
リオハの中心部から東側に広がる地区です。エブロ河の両岸にまたがっており、一部はナバーラ州になります。アルコールが高めのロゼ、赤ワインが主に造られています。「リオハ・バハ」から改名してオリエンタルになりました。
その他の重要な規則
市町村名ワイン『ビノス・デ・ムニシピオス』
Vinos de Municipios
リオハDOCaに145ある市町村などの基礎自治体のブドウを使ったワイン。条件つきで隣接エリアのブドウが15%までブレンド可能です。
単一畑または、パラへのワイン『ビニェード・シングラール』
Vinedo Singular
ひとつの畑、または同じ基礎自治体にある複数区画の集合体(=パラへ)のブドウから生産。認められる畑には周囲とは異なる独自の自然条件があること、35年以上の樹齢、収穫は手摘みなどの条件があります。2022年6月時点で121が認められています。
上質スパークリングワイン『エスプモゾ・デ・カリダ』
Espumoso de Calidad
リオハはスペインで最も有名なスパークリングワイン『カヴァ(カバ)』の生産地のひとつですが、それとは別に独自のスパークリングワインの生産が認められています。
リオハワインの金の網
近年では見かけることは少なくなりましたが、以前は金の網に包まれたリオハワインがよく見られました。これはもともと偽物防止の意味合いで付けられるようになったものです。偽物のリオハワインが横行した当時、本物が入っていた空のボトルに偽ワインを詰めて売られました。そこでボトルに網をかけて封印するようになったのが由来です。やがてこの金網はリオハワインの象徴的なシンボルになり、リオハ以外の地域でも「レセルバ」や「グランレセルバ」のような高級銘柄に使われるようになりました。
関連コラム
参考
大滝恭子、長峰好美、山本博/『スペイン・ワイン』/2015年
スペイン大使館経済商務部 発行冊子/『スペインのワイン』/2006年
ヒュー・ジョンソン、ジャンシス・ロビンソン/『世界のワイン図鑑 第8版』/ガイアブックス/2021年
一般社団法人日本ソムリエ協会/『日本ソムリエ協会 教本2023』/一般社団法人日本ソムリエ協会(J.S.A.)/2023年
リオハワイン オフィシャルサイト/2024.2.27閲覧
https://riojawine.com/