シェリーのブドウ産地
スペイン最南部のアンダルシア州がシェリーの故郷です。そのなかでも3つの街を中心に限られた地域で造られます。三つの町を結ぶと三角形になるので、通称『シェリー・トライアングル』と呼ばれています。
- ヘレス・デ・ラ・フロンテラ
- サンルカール・デ・バラメーダ
- エル・プエルト・デ・サンタ・マリア
シェリーの畑はほぼその全てが「アルバリサ」と呼ばれる白亜質土壌(石灰を多く含んでいて白く見えます)で、暑いアンダルシアで貴重な湿度を保つのに最適な自然環境になっています。ただし、海岸の砂質の畑はモスカテル種に適した土壌です。
パロミノ
Palomino
シェリー3品種のなかで最も重要な立ち位置となっているのが『パロミノ』で、シェリーのために栽培されているブドウの95%以上を占めています。その名前はレコンキスタの時代にアラブからキリスト教徒がへレスを奪還した際に活躍した兵士の一人、フェルナン・イバニェス・パロミノからつけられました。パロミノという言葉には平和の象徴である鳩意味するパロマ(Paloma)から派生していて、「鳩のヒナ」という意味があります。
この品種は糖分や酸が少ないため通常のワインにすると柑橘のフレーバーがついた水のように軽いワインになります。しかしシェリーにとってはうってつけで、突出した個性のなさが逆にシェリー独特の熟成に向いていました。現在主流となっているのは「パロミノ・フィノ」で、もう一つ「パロミノ・デ・へレス」がありますが、こちらはクラシックな品種で現在ではあまり栽培されていません。
パロミノがシェリーの主流になったきっかけにはヨーロッパ中のブドウ畑を襲ったフィロキセラ(ブドウの害虫)禍です。スペインでは1973年にこの地方のマラガに上陸が確認されました。その終息以後、43もあった品種の中から時代の嗜好にあわせて取捨選択されたのがパロミノでした。
ペドロ・ヒメネス
Pedro Ximenez
フィノ・スタイルとオロロソ・スタイルのほか、同名の極甘口のシェリー銘柄『ペドロ・ヒメネス』に使われる品種です。収穫されたペドロ・ヒメネスは天日干し(ソレオ)で水分をとばし、糖度を高めます。これを潰してドロドロの状態になったものに酒精強化を行ってソレラ・システムで熟成します。
自社生産しているヒメネス・スピノラ社を除けばそのほとんどが遠方のモンティーリャ・モリーレスから買付けられます。通常の原産地呼称ではあまり考えられないことですが、生みより育ちが大切なシェリーでは法的に認めらたことです。ブドウの糖度が高く酸味が少ないのが特徴で、モンティーリャ周辺は標高の高さと極端な気候のためにとくにその傾向が高まります。
品種の起源は恐らくアンダルシア州が原産であるとされ、1618年には同州のマラガで既に有名になっていました。DNA解析によって、アラブに起源があると考えられている古い生食用品種(GIBI)との親子関係が示唆されています。
モスカテル
Moscatel
正式名称は「マスカット・オブ・アレキサンドリア」。チピオナ と チクラナ・デ・ラ・フロンテラ の2つの町は主要産地であることから例外的にこの2都市で熟成したものはシェリーに認められており、極甘口銘柄の『モスカテル』になります。収穫後は基本的に醗酵させずに酒精強化されるため、ブドウ由来のアロマがあります。紅茶やジャスミンのような華やかさと柑橘類の爽やかさに酸化熟成で生まれるほどよい苦味は絶妙です。
近年の研究の成果で地中海地方全域で栽培されているミュスカ・ブラン・ア・プティ・グランと、イタリアのサルデーニャ島やギリシャのマルタ島をはじめとする島々で栽培される生食用黒ブドウ(AXINA DE TRES BIAS)の自然交配品種であることがわかりました。
伝統的なブドウ品種が認定される
フィロキセラ禍以前に栽培されていた伝統的なブドウの使用が2022年に認定されました。いずれも白ブドウです。
ベバ
Beba
アンダルシア州ではサンルカール・デ・バラメーダ、へレスなどで栽培されています。太陽の下で果粒が金色(dorada)を帯びるので、BEBA DORADA DE JEREZと呼ばれることが多いです。CHELVAと呼ばれることもありますが、隣のエストレマドゥーラ州で栽培されているCHELVAとは別物なので注意が必要。アメリカの農務省のDNA解析でトゥルソー(フランスのジュラ地方原産)と同じであることが発表されたことがありますが、これは誤りで他の研究機関からの報告とは異なります。
ペルーノ
Perruno
アンダルシアの隣、エストレマドゥーラ州が原産。19世紀にはへレスの半分をこの品種が占めていました。糖度と酸度が低いといわれています。スペインの宣教師によってアメリカに持ち込まれた「ミッション」と親子関係にあることが示唆されています。
ビヒリエガ(ビハリエーゴ)
Vigiriega(Vijariego)
アンダルシア州で広く栽培されている品種であったことを19世紀の記録に見ることができます。様々な場所や生産者によって呼ばれ方が違います。豊産性で樹勢が強く、中~晩熟。酸度が高く、同じスペインのグラナダではアルコール度数が上がりにくいなどの理由で消滅状態にありました。
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参考 中瀬航也/『Sherry』/株式会社志學社/2017年 しぇりークラブ(高橋美智子)、和泉もも子、益子勝也/『Sherry~樽の中の劇場』/株式会社スペクトラム・コミュニケーションズ/2017年 大滝恭子、長峰好美、山本博/『スペイン・ワイン』/早川書房/2015年 ヒュー・ジョンソン、ジャンシス・ロビンソン/『世界のワイン図鑑 第8版』/ガイアブックス/2021年 一般社団法人日本ソムリエ協会/『日本ソムリエ協会 教本2024』/一般社団法人日本ソムリエ協会(J.S.A.)/2024年 ジャンシス・ロビンソン、ジュリア・ハーディング、ホセ・ヴィアモーズ/『ワイン用葡萄品種大辞典』/共立出版株式会社/2019年