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ワインのキホン

ワインの酸化防止剤『亜硫酸(塩)』とは

ワインの酸化防止剤『亜硫酸(塩)』とは

なぜ、ワインには亜硫酸が使われるのでしょうか。ワイン造りに利便性の高い4つの効果をご紹介します。

亜硫酸とは?

二酸化硫黄のことで、ワインの裏ラベルには「亜硫酸(塩)」と表示されます。

自然界に存在するもので、火山地帯に見られる薄い黄色の岩のようなものです。
二酸化硫黄が水に溶けると亜硫酸になります。

ワインはアルコールを含むものなので、一般的にいう「腐る」(微生物による悪い変性)ということはほぼ起こりません。しかしブドウがワインになってボトルに詰められるまでの間、酸化や望まない微生物の影響を抑えるために亜硫酸が必要に応じて使用されています。

亜硫酸の効果

亜硫酸には大きく以下の4つの効果があります。

抗酸化作用

亜硫酸は酸素と結合しようとする力が強い物質です。
自らが先に酸化されて酸素を奪い、ブドウや果汁・ワインを酸素から守ります。

酸化酵素の働きを抑える

ブドウや果汁、ワインの酸化を促進する「酵素」があるのですが、亜硫酸はその働きを阻害して酸化を抑制します。

酸化したワインの風味を取り戻す

亜硫酸はアルコールの酸化によって発生する主物質(アルデヒド)と結合する性質があります。
アルデヒドが発生した場合、亜硫酸で本来ワインがもっていた風味を取り戻すことができます。

抗菌作用

醸造に望まない微生物(酢酸菌や乳酸菌・悪玉酵母)を選択的に死滅させる作用があります。
適量を使用すれば有用な微生物だけが残り、健全なワインを造るのに役立ちます。

ワイン造りで亜硫酸が使用される主な場面

  1. ブドウの実を破砕する段階
  2. 醗酵の最終段階
  3. 瓶詰時

これらすべてのタイミングで使用されるわけではありません。全く使用しないことがあれば、瓶詰めのときに極少量ということもあります。

歴史

古くから、18世紀頃まで

人は科学の知識を得るよりずっと前から硫黄を利用してきました。
ワインの分野では、ローマ時代に硫黄を燃やして出るガスを果汁やワインを入れる壺の殺菌に用いていました。煙がワイン壺の水分と反応して亜硫酸になり、殺菌作用を発揮したのです。非常に効果的で、現在でも樽の殺菌に用いられています。

18世紀、当時ワインに二酸化硫黄を添加することが最新技術の一つでした。
ボルドーで最も歴史あるシャトーの一つ「オー・ブリオン」は、「澱引き」「樽を満杯にしておく」という技術とともに二酸化硫黄をワインに添加しました。抗酸化作用によって、それまでのようにワインが一晩のうちに劣化してしまうことがなくなりました。この成功によってシャトーは多くの愛好家を獲得しました。

現在

現在は世界的に「自然なワイン造り」が求められています。そのため使用する亜硫酸(塩)の量を減らすのがトレンドです。しかし、人的介入を嫌う『ナチュラルワイン』でも亜硫酸を全く使用しないのは稀です。

その理由は、酸化防止効果よりも抗菌作用が有用だからです。
『酸化の防止』は醸造技術の向上によって亜硫酸を使わずにうまく抑えることができるようになってきました。しかし目に見えない菌をコントロールすることは今でも難しいままです。
亜硫酸無添加で誰もが健全なワインを造ることができたならよいのですが、

  • 酸化した風味
  • 不快な風味
  • お酢っぽい風味
  • 果実由来の酸味が失われる

といったようなことが起こる可能性は低くありません。わずかな量の亜硫酸使用は容認されるのが一般的な理由はここにあります。

安全性

二酸化硫黄(亜硫酸)は一度に大量摂取すると急性中毒を引き起こします。しかし大量摂取すると毒になるのは風邪薬でも塩でも水でも同じで、適切な量であればほとんどの人に害はありません。一般的にドライフルーツにはワインの10倍ほどの亜硫酸が使われており、そのほかフルーツジュース、をはじめ市販のフルーツサラダやソーセージ、剥いたジャガイモなど数多くの食品に使用されています。

WHOは、現代の食事に含まれる二酸化硫黄の総量調査を行って「安全な範囲内」という見解を示しています。

喘息や、アレルギーのある人には注意が必要

気をつけなければならないのは、喘息をもつ人やアレルギー体質の人には発作やアレルギー反応を引き起こす可能性があることです。

配慮のため、EUでは二酸化硫黄を10g/L以上含むワインに「Contains Sulfites」(二酸化硫黄[亜硫酸塩]含有)と明記することを義務付けました。それによって事実上すべてのワインにこの表示が付くようになっています。後述しますがアルコール醗酵時に酵母は硫黄化合物を生成します。ほぼすべてのワインに天然由来の硫黄化合物が含まれるからです。

亜硫酸濃度の規制値

亜硫酸が安全な値に保たれるよう、アメリカ、オーストラリア、日本など各国で上限が定められています。
最も代表的な、EUの例

  • 辛口赤(残糖4g/L以下) 150mg/L
  • 辛口白・ロゼ(残糖4g/L以下) 200
  • 赤ワイン(残糖5g/L以上) 200
  • 白ワイン(残糖5g/L以上) 250
  • シュペートレーゼ、ボルドー・スペリュールなど 300
  • アウスレーゼなど 350
  • 貴腐ワインなど 400

時代とともに上限値は低くなってきており、醸造化の技術の向上につながっている側面がみられます。

無添加の『サンスフル』にも、亜硫酸は含まれる

亜硫酸は、ブドウ果汁が醗酵してワインになる過程で自然発生します。
そのため人為的な添加量がゼロのワイン(=「サン・スフル」フランス語で亜硫酸を使用していないワインを指す)にも微量の亜硫酸が含まれます。日本では亜硫酸を人為的添加していない場合、ワインの裏ラベルに「亜硫酸(塩)」の表示をする必要はありませんが、その場合でも自然発生分の亜硫酸はワインに含まれています。

醸造時に自然発生する亜硫酸量は5~15 mg/Lまたは30mg/L(文献によって差あり)ほどと分析されています。

亜硫酸を人為的に除去する技術がなくもないのですが、それでは「ナチュラルなワイン」ではなくなってしまいますし…
亜硫酸との付き合い方は、他の食品添加物と同じように人それぞれがスタンスを考える必要があるかもしれません。
熟考の結果「あまり気にしない方がよい」という専門家もいます。

関連コラム

【参考】
ディヴィッド・バード/『イギリス王立化学会が教えるワイン学入門』/エクスナレッジ/2019年
ジェイミー・グッド/『新しいワインの科学』/河出書房新社/2014年
大橋健一/『自然派ワイン』/柴田書店/2004年
ジェイムズ・ローサー/『FINE WINEシリーズ ボルドー』/ガイアブックス/2011年

国税庁/酒類製造における亜硫酸の適正使用について/2025年2月13日閲覧
https://www.nta.go.jp/taxes/sake/anzen/pdf/01_1_1.pdf


食品安全委員会添加物専門調査会/(案)添加物評価書 亜硫酸塩等 令和6年(2024年)8月/2025年2月14日閲覧
https://www.fsc.go.jp/fsciis/attachedFile/download?retrievalId=kai20240828te1&fileId=110

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