シラー(ズ)とは?
シラーは黒胡椒やブラックチョコレートの風味、独特の濃い色あい、豊かなタンニンをもつ品種です。シラーズ(Shiraz)の名前で広まっているオーストラリアでは、フランスの伝統に習ったスタイルのものや、まったく異なるモダンな味わいの銘柄まで幅広く生産されています。
シラーは世界的に人気の高い品種で、ワイン用の黒ブドウ品種の中ではカベルネ・ソーヴィニョン、メルロー、テンプラニーリョに続いて4番目の生産面積を誇ります(2016年データ)。
シラーの特徴
畑でのシラーは樹勢が強い(=枝葉がよく伸びる)ブドウ品種のため、適切に管理しながら育てる必要があります。代表産地の北ローヌは花崗岩質の土壌で、石灰質の強い土壌ではうまく育ちません。黒味の強い小さめの果粒です。熟すとすぐに萎んでしまうのでブドウの果実が色づきを見せてから収穫されるまでの成熟期間は短めです。そのため収穫に適した期間も短くなります。病気には比較的弱く、シラー(ズ)に特有の病気や生育障害も聞かれます。
ワインの味わいがパワフルで色味が濃いので畑の中でも強さのある品種と思うかもしれませんが、意外に繊細。輝かしい特徴は、高い気温には比較的強いため温暖化の進んでいる昨今注目を集めていることです。日照が豊富で冷涼な地域(高標高など)でも繊細なスタイルのワインができることから、近年シラーは別の側面をみせはじめています。
シラーの色・香り・味わい
風味においてシラーの最も特徴的な部分はそのスパイシーさです。黒コショウのようなアロマと風味があり、フルボディで濃い色合いとタンニンの多さが特色です。重厚感はありますがタンニンは柔らかく、温暖な地域のシラーはハイアルコールでボリュームがあり甘味のある黒果実のフレーバーになります。よく熟したブドウやから造られたワインはダークチョコレートやプルーンのようなフレーバーがあり、時にポートワインを思わせるニュアンスをもちます。冷涼地域のシラーはジューシーで果実味に富み、フルボディながら柔らかさを兼ね備えるスタイルのものが多いです。
シラーの産地
世界で最もシラーの栽培面積を誇っているのはフランスです。シラー発祥の地、ローヌ地方はシラーワインのスター銘柄を産する重要産地です。しかし最も量を造っているのは南フランスのラングドック・ルーション地方です。
世界第2位は、オーストラリア。フランスから伝わって『シラーズ』と呼ばれ、国内のワイン産地のほぼすべてで生産されています。オーストラリアのシラーズは世界的にヒットしており、今では国を代表するブドウ品種に成長しました。オーストラリアでの大成功によってシラーは知名度を上げ、世界中で栽培される人気品種になっています。
スパイシーさの秘密
世界に数あるブドウ品種のなかでもシラーのスパイス香は際立って独特のものです。オーストラリアワイン研究所(アデレード)によって、シラー(ズ)にみられる胡椒のような香りは『ロタンドン』という化合物に由来することが明らかになりました。ロタンドンはマジョラムの葉やローズマリー、ソルトブッシュ、ゼラニウムにもみられる成分で、胡椒にはブドウの6,000倍以上も含まれています。個人差があり、18%ほどの人にとっては感じとりにくいという研究結果もありあます。
シラーに合う料理のヒント
世界の様々な地域で生産されるシラーワインは、生産地によって濃厚なものからエレガンスの備わったものまで味わいに幅があります。とはいえジュ―シーな果実味とスパイス感は基本的な特徴。これらの要素には肉料理を合わせることがマストです。
ラム肉
まず挙げるべきは羊肉です。ラム肉の独特の風味とシラーのスパイス感は特筆もので、お互いを引き立てあうのにもってこい。シラーワインがまるで肉のソースのようになってどんどんフォークが進みます。スパイスにローズマリーやカレー粉などを使うのもおすすめです。強めの香りづけでもシラーの個性が負けてしまうことはありません。
牛肉
シラーには赤身の肉が合いやすい傾向があります。赤身に含まれる鉄分や脂質といった食材の要素がシラーの豊かなタンニンと相乗効果をもたらします。肉に焦げ目を付けるとシラーのスパイス感とより合いやすくなりますのでおすすめです。
鴨、いのしし、鹿などのジビエ肉
ラム肉と同じように、独特の風味がある赤身の肉はシラーと好相性です。マスタードを添えてもよいでしょう。
調理法は焼く、煮込むがおすすめ
フランス スタイルのシラーに焼いた肉料理はいわずもがなですが、オーストラリア スタイルのシラーズに煮込み料理を合わせるのもおすすめです。果実味豊かでジューシーなシラーズは、しっとりとしたテクスチャの煮込み料理とも好相性です。煮込みハンバーグやラグーソース、スネやスジをチキンブイヨンと香味野菜で煮込んだ(ワインを入れても)料理を合わせると柔らかなシラーズによく合います。チリをきかせたミートボール煮込みなどもおすすめです。
世界の様々なシラーワインを片手に、美味しいお肉料理を楽しんでいただけたら幸いです。
産地ごとの生産量・特徴
世界で最も生産量が多いのは、オーストラリアです。それに原産国のフランスが続きますが、最重要銘柄が生まれるのは現在でもフランスのローヌ地方です。
シラーの起源
シラーの語源は「長時間」を意味するser-です。 そこから「晩熟」を意味するserusという言葉ができ、この品種の別名であるSerine(セリーヌ=シラーのローヌ地方での別名で今でも使われている)がうまれました。
『シラーズ』との関係
第二の故郷といわれるオーストラリアでは『シラーズ』と呼ばれていますが、シラーとシラーズは同じものです。
『プティ・シラー』との関係
シラーは、カリフォルニアで知られている品種『プティ・シラー』の親品種です。フランスでは過去にシラー自身もプティ・シラーと呼ばれていたことがありました。
参考文献
ヒュー・ジョンソン、ジャンシス・ロビンソン/『世界のワイン図鑑 第7版』/ガイアブックス/2014年
ジャンシス・ロビンソン、ジュリア・ハーディング、ホセ・ヴィアモーズ/『ワイン用葡萄品種大辞典』/共立出版株式会社/2019年
一般社団法人日本ソムリエ協会/『日本ソムリエ協会 教本2022』/一般社団法人日本ソムリエ協会(J.S.A.)/2002年