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ワインのテロワールとは何か?理解するための基礎知識

ワインのテロワールとは何か?理解するための基礎知識

ワインの世界ではブドウ畑を取り巻く自然環境がワインの個性や品質に大きく影響すると考えられています。その環境や条件を「テロワール(Terroir)」と呼びますが、今回はそのテロワールの重要性や有名なワイン産地との関係を紐解いていきます。

ワインの『テロワール』とは

テロワールとは、フランス語で土地や地球を意味する「terre」から派生した言葉です。テロワールには明確な定義はないので概念として捉えるしかありませんが、それが意味するものは農産物が生育する土地の自然環境のすべてです。土壌や地質、地形、気候。考え方によってはそこに住む動植物・微生物、栽培者(人)などを含める場合があります。このようにテロワールは自然環境を包括的に表現するときに使います。ですから世界の畑にはひとつひとつ異なったテロワールがあります。身近なところでは、例えばあなたの家の庭にもテロワールがあります。

テロワールはその違いによって、ワインに明確な個性をもたらします。たとえば同じブドウ品種でも産地が違えばワインの香りや味わいに違いが出ますし、同じ産地・ブドウ品種でも道一本隔てたとなりの畑はテロワールが異なっているかもしれません。このようにテロワールは、知れば知るほどワインをより深く楽しませてくれるものです。

テロワールの要素

テロワールという考え方は概念的なものですが、外して考えることのできないいくつかの要素があります。代表的なものを例にみていきましょう。

土壌


ブドウを育てるのは畑の土です。土の細かさや、その成分はブドウの生育に大きな影響を与えます。粒子が大きい砂利質や細かい粘土質、またアルカリ性の石灰質や酸性の腐葉土など。ブドウの根が吸収するミネラルや水分などの成分によってブドウの出来に影響します。

地質


目に見える土壌(表土)の下にある岩石はその一部が風化して土壌に影響しています。地質は目には見えませんが、地層の隆起によって場所によって異なっています。

地形


標高、日当たり、傾斜などによって寒暖差、日照時間や水はけや表土の侵食具合などの条件が変わります。これらはブドウの糖度や酸度など重要な部分にとても大きく影響します。

その他の要素


日照気温・気候をはじめ、ワイン生産者によっては畑に住む微生物や、動植物の活動(虫・鳥・獣・雑草など)の影響をテロワールの一部と考える人もいますし、テロワールには栽培を行う人が含まれると考える生産者もいます。

忘れてはいけないのは、ワインはテロワールの影響を非常に受けやすい醸造酒だということです。穀物と水を原料にするビールや清酒に比べ、果実を原料にするワインはブドウの果汁をそのままアルコール醗酵させるためブドウの善し悪しが出来不出来に直結するからです。

テロワールを反映するワインの例

テロワールによってワインの味わいが変わることを具体的に見てみましょう。ここでは、同じ品種で異なる産地のワインを例にご紹介します。

『シャルドネ』の場合


・フランス/ブルゴーニュ地方

粘土石灰質の土壌で育ったシャルドネ種は繊細で、レモンやライムのような酸味ミネラル感がワインにはっきりとした輪郭をもたらします。上級ワインは樽熟成されて、バターやナッツなどの複雑な香りが加わります。

・アメリカ合衆国/ナパ・ヴァレー(カリフォルニア州)

100種類以上の土壌が存在し、冷たい太平洋による影響の大小や標高によって様々な表情を見せます。秋にほとんど雨が降らないためブドウが熟すまでの猶予が長く、洋ナシやトロピカルフルーツのような熟れたフルーツの風味豊かなワインになります。樽の風味との相性がよく、トーストやバターのような風味が付けられる場合があります。

『ピノ・ノワール』の場合


・フランス/ブルゴーニュ地方

粘土石灰質の土壌で育ったピノ・ノワール種は、木苺やアセロラのような赤い果実や花の香りに、スパイスやキノコなどの地味な香りが加わります。とても繊細で上品な味わいで、タンニンは柔らかです。

・ニュージーランド/マールボロ地区

堆積の土壌で育ったピノ・ノワール種は、チェリーやプラムなどの果実味が豊かで、タンニンはしっかりとしています。ペッパーやクローブなどのスパイシーな香りもあります。

・アメリカ合衆国/ウィラメット・ヴァレー(オレゴン州)

火山性土壌と海底が隆起した堆積粘土質が入り組んだ土壌で育つピノ・ノワール種は、ベリーやカシスのような果実風味となります。

『リースリング』の場合


・ドイツ・ラインガウ地方

粘板岩質の土壌で育ったリースリング種は、レモンやグレープフルーツなどの柑橘系の香りと、シャープな酸味甘みがバランス良く加わります。冷涼な気候で成熟が遅れるため、貴腐菌によって甘口に仕上げられることもあります。

・フランス・アルザス地方

灰岩質の土壌で育ったリースリング種は、桃やアプリコットなどの白い果実の香りをまとい、酸味とミネラル感が強くなります。温暖な気候で成熟度が高く、アルコール感を伴った辛口に仕上げられることが多くなります。

このように、テロワールの違いによって同じブドウ品種でもワインの味わいが大きく変わります。生産地域や畑ごとのテロワールを知って、ワインの個性をより深く楽しんでみてはいかがでしょうか。

土壌ごとで選ぶテロワールワインをご紹介

火山性土壌


スモーキーな香りと長く残る果実味が特徴で、强くて上品なミネラル感があり、余韻が長く後味にほのかな苦味があるワインになる傾向があります。

粘土質土壌


濃厚で厚みがあり、豊富なやや粗めのタンニンが特徴で、重厚で力強いワインを生み出す傾向があります。

石灰岩土壌


まろやかでエレガントなアロマがあり、骨格がしっかりとして爽やかな酸味を持ち、繊細で余韻が長いワインを生み出しやすいです。

花崗岩土壌


花のような香りと豊かな果実の香りが特徴で、華やかで軽やか、ミネラル感があり、よく開いていて飲みやすいワインになりやすいです。

参考文献

ヒュー・ジョンソン、ジャンシス・ロビンソン/『世界のワイン図鑑 第8版』/ガイアブックス/2021年

一般社団法人日本ソムリエ協会/『日本ソムリエ協会 教本2018』/一般社団法人日本ソムリエ協会(J.S.A.)/2018年

大越基裕/『ロジカル ペアリング』/柴田書店/2023年

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