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ワインのキホン

産地別に解説『アメリカワイン』ってどんなワイン?

産地別に解説『アメリカワイン』ってどんなワイン?

アメリカ合衆国(以後アメリカ)は50の州とワシントンD.C.からなる国でワインの消費量は世界最大!しかも伝統国の消費量が下降ぎみなのに対し、アメリカでは増加傾向。市場の拡大とともに生産量が増大しており、フランス、スペイン、イタリアに次ぐワイン産地になっています。

アメリカワインの産地

アメリカ合衆国ではアラスカを含めた50州のすべてで、なんらかのワインが生産されています。主要なワイン産地のブドウ畑はヨーロッパ系品種の比率が高く東西の沿岸部にあります。

西側

  • カリフォルニア州
  • オレゴン州
  • ワシントン州

東側

  • ニューヨーク州
  • ヴァージニア州

主なブドウ品種

西の太平洋側ではシャルドネ、ピノ・グリ、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルローなど。とくに冷涼な地域ではピノ・ノワール、リースリングなどの割合が高まります。

東部の大西洋側ではリースリング、シャルドネ、カベルネ・フラン、ピノ・ノワールなど冷涼な気候に合う品種が多くなっています。

AVA

(American Viticultural Areas=米国政府認定ブドウ栽培地域)

一定の地理的・気候的なブドウ栽培条件をもつとされるエリアの境界線を規定しているのがAVAです。ヨーロッパの原産地呼称のようにブドウ品種や栽培・醸造法までを規定しているわけではなく、あくまで境界を定めたものです。240以上あり、既存のAVAの中に小規模なAVAが認定される傾向があるため増加中です。

ワイン法

TTB(Alcohl and Tobacco and Tax Trade Bureau)

酒類の製造と徴税に関する法律で、米国財務省の管轄です。ワインの製造方法・品質管理を行っている程度で、ヨーロッパの伝統国のような緻密な規定になってはいません。ですから同じAVA内でも様々なタイプのワインができます。

ワインの格付け

ワイン法に格付けはありません。AVA間の優劣はなく、ブドウ品種、スタイル、品質なども規定されていません。

ラベル表示のルール

ワインのラベルに『産地名』『ブドウ品種』『ヴィンテージ』を記載する際は、一定の条件を満たすルールになっています。

産地名

産地内の収穫ブドウ比率
国名・州名
75%以上
AVA
85%以上
畑名
95%以上

※カリフォルニア州産の表示の場合は100%州内ブドウを使用
※オレゴン州ではすべての産地表示に95%以上州内ブドウを使用

ブドウ品種


ワインに使用しているブドウ品種が75%以上の場合に品種名を表示できます。

ヴィンテージ


AVA表示のあるワインの場合は同一収穫年のブドウ95%以上、国・郡・州名の場合は85%以上で収穫年を表示することができます。

カリフォルニア州

特徴


IT産業の最先端『シリコンバレー』で有名なカリフォルニアですが、アメリカ合衆国のワイン総生産量のうち約80%を占める重要な州でもあります。太平洋に面した南北1,300kmにも及ぶ広大なエリアでブドウが栽培されており、地域ごとに様々なワインが産出されまます。『ナパ』に代表される高級品から、スーパーマーケットで安く買える大容量の紙パックワインまで幅広く生産されています。

ブドウ品種と味


カベルネ・ソーヴィニヨンの赤ワインがカリフォルニアの代名詞です。カリフォルニアの気候は晩熟なカベルネを完熟させ、重厚な赤ワインを造り出します。このスタイルは1970年以降、長らく続いてきましたがよりソフトでエレガントなスタイルのワインも造られるようになってきました。一部の冷涼産地で生まれるピノ・ノワールシャルドネコクのある白の評価も高まっています。リーズナブルながら力強い味わいのジンファンデルプティ・シラーといった品種も魅力的です。

オレゴン州

特徴


主要産地の『ウィラメット・ヴァレー』が州の典型です。アメリカの中で最も職人的で、フランスの「ブルゴーニュ」の雰囲気をもった場所です。主要なブドウ品種となっているピノ・ノワールが約60%を占めており、冷涼な気候を生かした高品質なワインが生産されています。昔から小さな自家農園でブドウを育て、ワイン造りと瓶詰めを行う土地柄。南隣のカリフォルニア州や北のワシントン州のスタイルとは一線を画しています。

緑豊かな自然環境に対する意識が高く、畑の半分近くで有機農法やサステイナブルなどの取り組みが行われています。

白ワインも良質で、『ピノ・グリ』『シャルドネ』が1,2位のシェア。それにリースリングなどアロマチックな品種が続きます。

ワシントン州

特徴


マイクロソフト、Amazon、スター・バックスなどアメリカを代表する企業の本拠地がある州です。近年ワインの生産量が急増しており、国全体の4%(2番目)の規模になっています。太平洋の湿った風がレーニア山(4,392m)をピークにたたえるカスケード山脈に当たり、雨を降らせた先の内陸地にワイン産地があります。そのため風が強く寒暖差が大きいのが特徴。ブドウの生育には申し分のない環境ですが畑は非常に乾燥しており、灌漑によって水をひく必要があります。

収穫されたブドウの多くがシアトルに集中するワイナリーに購入され、カスケード山脈を越えた先に運ばれます。

ブドウ品種と味


大陸性の気候で気温が低いことから、最も多く収穫されているカベルネ・ソーヴィニヨンは限られた畑でしか完熟できません。しかしながら深い色、小気味よい酸味爽やかで明朗な風味を備えており、ふくよかさと柔らかい果実味が凝縮されます。
メルローはその特徴をよく発揮しますが、冬の寒さに弱いため凍結のリスクと戦いながら栽培されています。

白ブドウではシャルドネが最も多くなっており、それに続くのが以前から広く植えられていたリースリングです。一度は人気を失いましたが、爽やかで香り高いことから再注目されています。

ニューヨーク州

歴史的にジュースや製菓用のブドウを生産してきた州で、ワイン用のヨーロッパ品種(ヴィニフェラ系)は後発ですが、品質が向上していて期待されている産地です。スパークリングワインピノ・ノワールリースリングといった冷涼産地に向いた品種が活躍しています。

ワイン産地は自然条件の恩恵を受け、北緯41~43°(参考:札幌43°)の高緯度のわりに気候が和らげられています。

フィンガー・レークス

水深の深いオンタリオ湖は、冬に温かく夏には冷たいことから気候を温和にしてくれます。とはいえ冬は-20℃まで冷えるため、アメリカに自生していたラブルスカ系のブドウが向きます。ヨーロッパ系ブドウ(ヴィニフェラ系)は技術向上によって徐々に増えて2割を超えてきており、寒さに強いリースリングが注目されています。赤ワインも少量造られており、カベルネ・フランが最も成功しています。

フィンガー・レークスの中にあるAVAセネカ・レイクは、水深180mに及ぶ氷河湖の影響で大きく気候が緩和されるエリアです。

ヴァージニア州

特徴

首都ワシントンDCに隣接することから政府や軍の関係者や出身者が多く、所得レベル高い州のひとつです。ワイン用のブドウ栽培にはやや短めの育成期間、夏の高温多湿や厳しい冬がヨーロッパ系ブドウ品種の栽培を困難にしてきました。そうしたなかでも小規模で趣味的ながら良い生産者が努力を続け、ワイナリーの数は2021年データで約300に増加しています。

西の太平洋側とは逆に、北大西洋のヴァージニア沖の海流は「暖流」です。その影響が一つにあり海側の南部にいくほど温暖で湿度が上がります。1月の最高気温は平均5℃、7月は30℃で年間降水量は1,000 mmを超え(ブドウ産地としては多い ※参考:東京都1528.8mm)ます。沿岸部にはハリケーンが襲来することがあり、山間部は積雪量が多くなります。

ブドウ品種

個性あるブドウ品種が育てられており、ヨーロッパ系ブドウ(ヴィニフェラ種)とアメリカ系ブドウの交雑(=ハイブリッド)品種が見られます。

白ブドウ種族ha黒ブドウ種族ha
シャルドネ
V
221
カベルネ・フラン
V
261
ヴィオニエ
V
123
プティ・ヴェルド
V
184
ヴィダル・ブラン
H
92
メルロー
V
181
プティ・マンサン
V
72
カベルネ・ソーヴィニヨン
V
127
ソーヴィニヨン・ブラン
V
45
シャンブルサン
H
74
トラミネット
H
32
ノートン
H
47

V=ヴィニフェラ(ヨーロッパ系)
H=ハイブリッド(交雑品種)

代表的なハイブリッド品種

ヴィダル(Vidal)

トレッビアーノ・トスカーノ×RAYON DO'Rの交配。寒さに大変強く、フォクシーフレーバーがありません。フランスで交配されましたが本国では公認されていない品種です。

トラミネット(Traminette)

JOANNES SEYVE 23.416×ゲビュルツ・トラミネールの交配。耐寒性がありスパイシーで香り高いのが特徴です。アメリカで開発されました。

シャンブルサン(Chambourcin)

SAYVE-VILLARD 12-417×CHANCELLOORの交配。耐寒性があり、香り高くなります。母国のフランスでは減少傾向です。

ノートン(Norton)

アメリカ系のヴィティス・アエスティヴァリス系とヨーロッパ系のヴィティス・ヴィニフェラ系を祖先に持ちます。アメリカ生まれでフォクシーフレーバーがかなり少ない特徴があります。

東西でワイン文化が違うのはなぜ?

アメリカ合衆国のワイン文化は、西側と東側で大きく違っているのがなんとなくお分かりいただけましたでしょうか?
一番の要因は、それぞれ違ったブドウ栽培の歴史があったことからにほかなりません。詳しくはこちらのコラムで『歴史』にフォーカスしていますのでご覧ください。

その他の関連コラム

参考
ヒュー・ジョンソン、ジャンシス・ロビンソン/『世界のワイン図鑑 第8版』/ガイアブックス/2021年
ヒュー・ジョンソン、ジャンシス・ロビンソン/『世界のワイン図鑑 第7版』/ガイアブックス/2014年
一般社団法人日本ソムリエ協会/『日本ソムリエ協会 教本2024』/一般社団法人日本ソムリエ協会(J.S.A.)/2024年

『東京の平年値による気候の特徴』/港区/2024.3.8閲覧
NY WINE REGIONS/https://www.newyorkwines.co.uk//2024.6.11閲覧
https://www.newyorkwines.co.uk/regions

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