ある土地でつくられたワインと、その土地の料理を合わせるペアリング。それはワイン好きの間では“テッパン”と呼ばれる組み合わせである。
ワインと音楽のペアリングにおいてもその法則は然り。私はそう思っている。
日頃から「美味しいワインを心地の良い環境で味わいたい!」そんなことを考えながら過ごしている私にとって、ワインと音楽のペアリングはライフワークとなっている。ワインとその土地の音楽を合わせることは、料理同様に“テッパン”。今日はそんなペアリングのひとつをご紹介したい。
ヴィクトリア州メルボルン市、ヤラ・ヴァレーに位置する『デントン・ヴュー・ヒル・ヴィンヤード』。
オーストラリアといえば、最初に思い浮かべるブドウ品種は「シラーズ」というのが一般的であると思うが、彼らの畑にその品種は見当たらない。
かわりに、ネッビオーロやピノ・ノワール、カベルネ・フランなどの品種が並ぶのが興味深い。
ワイン産地として知られるヤラ・ヴァレー中心地の外れに位置する彼らの畑は特異な存在だ。「土」がこのエリアに稀な花崗岩質というもので、「永続的に卓越したブドウが生まれる」とオーストラリアのワイン評論家ジェームス・ハリデー氏を絶賛させる。ワイナリーはこの“唯一無二のテロワール”を活かしてワイン造りを行う『自然派』だ。
“テロワール”。それは、ブドウが育つその土地の、気候条件や土壌、地形など、畑を取り巻く全ての自然環境を意味する。デントンには、デントンにしかない“テロワール”が存在し、彼らが生み出すワインの全てにそれが表れているのだ。
オーストラリアで最も影響力のあるワイン評論家に5ツ星を付けさせるデントンの醸造家は、才能溢れるルーク・ランバート氏。
オーストラリア、ニュージーランド、更にはイタリアのキアンティ地区やバローロ地区で修行を積み、母国のオーストラリアに戻った。今では有名レストランでオンリストされるようなワインを生み出すワイナリーの『顔』である。
さて、メルボルンといえばフォトジェニックな建物が立ち並び、音楽やアートをあちらこちらで楽しむことができる、芸術の街である。
そんなお洒落な土地で生まれるワインに、その土地で結成された、数々の音楽ファンを魅了するバンド、『ハイエイタス・カイヨーテ』の曲を合わせるのはどうだろう。
ハイエイタス・カイヨーテは、2011年にメルボルンで結成されたバンドである。ギター・ヴォーカルのネイ・パーム、ポール・ベンダー(Bs)、サイモン・マーヴィン(Key)、ぺリン・モス(Ds)の4人からなる。彼らの代表曲『NAKAMARRA』は、第56回グラミー賞ベストR&Bパフォーマンス部門にノミネートされた。受賞こそ逃したものの、この部門にノミネートされた初のオーストラリアのバンドとなった。
このバンドの魅力はなんといっても、ボーカル兼ギターのネイ・パーム。
才能あふれる彼女の音楽には、ジャズやソウル、ロック、ヒップホップ などの要素に加え、インドやアフリカなどの民族音楽の要素も混ざり合っているという。
代表曲となった『NAKAMARRA』(ナカマラ)は、オーストラリアの先住民であるアボリジナルが使う「スキンネーム」のひとつである。ネイ・パームは、アボリジナルとの生活を選択した友人に対して、その勇気を称え、この曲を作った。
彼女の中にはあらゆるジャンルの音楽や文化が織り混ざり、彼女にしかできない唯一無二の音楽を生み出しているのだ。
それはまさしく、世界中から人が集まり多様な文化が輝く「メルボルンそのもの」のように感じ、彼女の音楽からは、ワインでいうところの“テロワール”のようなものを私は感じる。ルーツ、生い立ち、環境、思想...。彼女を取り巻く全てが、生み出す音楽に自然と表現されているのではないだろうか。
メルボルンの唯一無二の畑から生まれるワインを飲みながら、メルボルンで生まれた唯一無二のバンド「ハイエイタス・カイヨーテ」の『NAKAMARRA』を聴く。
それはまるで、ランブルスコとプロシュート(※)のような、ベストマッチ感なのだ(※ともにイタリア、エミリア・ロマーニャの特産ワインと生ハムのこと)。
郷土の食べ物とワインを口にした瞬間の“ときめき”は、口と耳でもきっと感じることができるはず。テロワールが聞こえる音楽と、その土地のワインを味わえば...。
アーティスト:ハイエイタス・カイヨーテ(ソニー・ミュージック)
ペアリング推奨曲:『NAKAMARRA』