- 日本 山形県
有限会社 酒井ワイナリー
Sakai Winery
東北最古のワイナリーであり、最新のナチュラルなスタイル
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- 山形県南陽市赤湯980
100年以上の伝統がありながら革新的な挑戦を続けるワイナリー
酒井家十六代目当主酒井 弥惣(さかい やそう)氏は、1864年(元治元年)赤湯村に生まれました。1887年(明治20年)に赤湯鳥上坂にブドウ園を開墾。1892年(明治25年)ブドウ酒の醸造業をはじめました。帝国大学農科大学の古在 由直(こざい よしなお)先生に教えをうけますが、その時代の味覚に合わず見よう見まねの独学でブドウ酒醸造をしていました。1908年(明治41年)から1924年(大正13年)まで赤湯町長を務め、その間の仕事を「記憶のまま」「返り見る老後」などの自伝に残しています。
ブドウ酒醸造業は、大変な苦労の連続でした。戦争中は女性や年配の方などの手を借り、戦後は日本酒ブームのなか、細々と家業をつづけました。
「ワインが売れる時代が必ずくる」と信じていたからです。
その後、四代目又平氏に後継されると、ようやくワインに脚光のあたる時代がおとずれます。そして2004年(平成16年)酒井家二十代目当主、ワイナリーとしては五代目となる酒井 一平氏に代替わりし、現在に至ります。
「順境不誇」「悲境不屈」が代々の家訓でおごることなく屈することなく、今出来ることを精一杯励んでいるワイナリーです。
ワイナリー売店
技術は自然を模倣する
「技術は自然を模倣する」をモットーにブドウ栽培とワイン醸造をつづけてきました。
ワイン造りと反芻動物(はんすう:羊や牛など噛んで飲みこんだ食物を反芻胃で一部消化し、もう一度口に戻して噛んで胃に送る)の消化吸収のシステムに類似性があることに気付いてからというもの、ブドウがワイナリー(胃袋)の中で消化されていくイメージでワイン造りをしています。
醸造用タンクの材質の変化や有効な微生物を外部から添加するのが当たり前となった現代においては、ワイナリーとそのブドウ畑特有の微生物相(その環境に住む微生物をまとめた概念)の個性が失われていっているのではないかと同社は考えました。
ワイナリーを大きな生き物に例えると、その胃袋の微生物相を支えるのは何か?
餌となるブドウに付着した微生物、胃袋たるタンクやその周辺に住む微生物、発酵後にのこるブドウ粕や滓などから造られた糞としての堆肥。そしてその堆肥で育ったブドウというように、循環しながらその微生物相の個性と強度が高まっていく。そんなイメージを持つに至りました。
ブドウを通して多くのことを学んできましたが、今はより多くの動植物を通した目線で、畑と自然を見つめて山形の赤湯らしさをつき詰めている最中です。
自社畑の名子山から
南陽市の耕作放棄地の問題に取り組む
古くからブドウやフルーツの栽培が盛んだった山形県。
しかし、ブドウ畑を管理することはとても大変な仕事です。
近年では過疎化と高齢化により、さまざまな地域で耕作放棄地の問題がでています。酒井ワイナリーがある南陽市も例外ではなく、地域の社会問題となりました。同社では自分達が出来る範囲で耕作放棄されたワイン用ブドウ畑に新たな命を吹き込んでいます。現在は借入している畑を含めて7.5haの畑で栽培。どこも急な傾斜のある難しい環境ですが、農家の減少によりブドウが消えてしまう危機感から、高品質なブドウがたくさん栽培できるよう、日々畑仕事を行っています。
畑に放牧されている羊達
地温が低く寒暖差がしっかりと確保できる
豪雪地帯である赤湯は、雪解け水の影響で地面下を流れる水が年間通して冷たく保たれます。地温が低いため、暑い夏の時期にはブドウの実を冷やして昼夜の寒暖差がうまれます。ブドウの実が色づくヴェレゾン期に大切なことで、余計な養分の放出を防ぎ、実に栄養が行きわたった熟度の高いブドウを収穫することができます。この「冷たい地面」は酒井ワイナリーの品質の高いワインを支える一因です。
真夏でも低い地温を保っている
雨が多いながら風通しが良い山路
一年中風が吹くことで有名は南陽市はパラグライダーが盛んで世界大会も開催されるほどです。日本海側で日照量が比較的少なく、年間を通して雨が多い地域である赤湯は、一般的にはブドウ栽培の難しい地域とされます。ところが、この山から吹く風がブドウ畑を通り、病気の原因になる「湿気」がこもるのを防いでくれます。このテロワールがブドウ栽培を可能にしているのです。
パラグライダーの大会も行われる
山地の地形を活かしたブドウ栽培
赤湯は米沢盆地の山間に位置しています。雨の多い沼地で、古くから稲の栽培がさかんな地域でした。時代が明治となった頃、米より高値で取引される果樹栽培に目を付けた初代の酒井 弥惣(さかい やそう)はじめ赤湯の人々がブドウ栽培をはじめました。ただ、記録によれば舟を使い田んぼを移動していたと記されているほどの湿地帯でしたから、体が半分も浸かってしまうような平地部分でブドウを栽培するのは困難です。そこで人々は、盆山の斜面に活路を見い出しました。斜面は水はけのよいことから次々に山を開墾していきます。山の畑は風通しが良く、斜面で日照も確保できます。この畑の光景は現在でも残っており、平地で稲を、斜面でブドウを栽培する地域が赤湯と山形各地で見られます。不利であった土壌条件を克服することで山形は日本の一大ブドウ産地へ成長を遂げました。酒井ワイナリーでは先代が苦労して築き上げた「赤湯」に愛着を持ち、伝統を継承しながらブドウ栽培を行っています。
腰まで浸かりながら田植えをする農家(昭和初期)
創業当時から無濾過を貫くユニークな醸造スタイル
100年以上もワイン醸造を行う酒井ワイナリーでは創業当時から濾過用のフィルターがありません。自然に根ざしたワイン造りを行う同社では酵母添加を行わず、野生酵母のみで発酵を行います。無清澄・無濾過、亜硫酸は極少量添加で、なかには無添加のワインもあります。そんなフィルター機材を持たないワイナリーではタンクにあるワインの滓が自然に沈殿するのを待ち、その上澄みのワインだけをすくっていきます。これを繰り返し行うことで最後に残った部分を澱と共に一升瓶で熟成(シュール・リー)させるユニークな熟成を行って、一部のワインにブレンドしています。一升瓶(1.8L)の容器がある日本だからこそできる醸造の風景です。
一升瓶で熟成されているワイン
伝統品種の品質をあげるキーワードは「ブレンド」
日本全国で農家の高齢化・耕作放棄地が問題になっていますが、赤湯もまた同じです。ブドウ畑の伝統を守ることに使命感を持つ酒井ワイナリーでは生食用ブドウも契約農家から購入してワインにしています。品質に問題はなく形が悪いなど、A品として売ることが出来ないブドウもなるべく高値で購入しています。シャイン・マスカットやロザリオ・ビアンコといった、普段は食用として目にするブドウが、ワインにユニークなヒントを与えると考えています。日本の固有品種や北米系のヴィティス・ラブルスカ種(通常、ワインにはヨーロッパ系のヴィティス・ヴィニフェラが使用される)は単一で醸造しても何か物足りなかったり、甘いニュアンスが出すぎたりするため、これらをブレンドすることで足りないところを補っているのです。またそれは相乗効果を生んでワインの品質が上がることにつながると考えています。同社では「ブレンド」をコンセプトにユニークなワインが多数生産されていますが、そこには醸造家としての酒井一平氏の哲学が詰まっています。
入荷される生食ブドウ