PHILOSOPHY

STORY

人類史にワインが登場して数千年。
かつては王侯貴族のためのものだったこの醸造酒が今では人々の生活に欠かせない存在となり、世界中で愛されていることに、疑いの余地はありません。

しかし、そこに覚える親近感とは裏腹に、気の遠くなる程の時間の中で生まれた膨大な種類のワインはそれぞれの個性を引き出すために機能の異なるグラスを必要とし、そこで求められる多くの知識や手間はいつの時代もワインラバーを悩ませてきました。その結果、適切でないグラスに注がれて提供され、ワインの魅力を損なってしまうケースは今も少なくありません。

ワインにまつわる世界最高峰の称号のひとつ、マスター・オブ・ワインの資格を持つジャンシス・ロビンソンもまた40年以上にわたる愛飲歴の中で、そうしたワインとワイングラスとの関係に違和感を抱くようになったうちのひとりです。

「なぜ、白ワインは赤ワインよりも小さなグラスに注がれるのだろう、と私はいつも思っていました。白ワインにも赤ワインと同じくらいの複雑味があるし、空気を与えて開かせてあげる必要もある。量だって、白ワインは少しだけしか飲みたくないなんていうことはありえないのに」。

さらに、様々なワイン生産者と出会う中でジャンシスの疑問は一層強まっていきました。

「人気の高いシャンパーニュのつくり手たちの、『なぜ自分たちのシャンパーニュはワイングラスではなく、いつも細長くて狭苦しいフルートグラスに注がれてしまうのか』という声を、ここ数年で耳にする機会が増えました。ポートやシェリーなどの酒精強化ワイン、甘口ワインの生産者たちも小さなグラスではなく、他の最高品質のスティルワインと同じようにワイングラスに自分たちのワインを注いで、クラフトマンシップを楽しんで欲しいと考えています」。

次第に彼女は、“最高のワイングラスとは何か”と自問自答を繰り返すようになり、こんな希望を抱くようになりました。

すべてのワインを、たったひとつのグラスで楽しめたなら。

その願いは奇しくも、“ワインという飲みものを、あらゆる人々にとって身近なものにする”という、彼女のプロフェッショナルとしての命題とぴったり重なるものでした。

そして2017年、ジャンシスに運命的な出会いが訪れます。
新たなワイングラスのコレクション制作を志した英国のプロダクトデザイナー、リチャード・ブレンドンが彼女の元を訪ねたのです。

彼の熱意に突き動かされたジャンシスは、幾度もスケッチを重ねて以前から抱いていたアイデアの具現化に挑み、リチャードは様々なプロトタイプをつくり、それに応えました。

ふたりと職人たちによる試行錯誤の末に完成したのが、ステムの有無が異なるふたつのグラスと2種のデキャンタです。

香りと味わいを最大限に引き出すこと。
それでいて、できる限りシンプルで美しくあること。
彼らの悲願は、最良の形で実を結びました。

食器棚やテーブルの場所も取らず、不要な手間もかからない。
憩いのひとときをさらに心地よく豊かにする、革新的なグラスコレクション。
使えばきっと、ワインのある暮らしが今まで以上に身近なものになるはずです。